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『煉獄編第二冠"嫉妬"』アルバニア

 自分で言うのも何だが、アタシは慈悲深い。
 結構繊細な方だし、例えばほら――
 あれだ。一言前に殺しちゃうバルナバスみたいな脳筋よりはずっと、ずーっと。
 うん、実際、他の冠位七罪に比べれば優しい方だとさえ思っている。
 魔種だ、大魔種だ、冠位だって言うけどさ?
 別に人間が相手だって見下したりなんてしないし、何なら人間の男を好きになった事だってある訳だし。
 でも、そんなアタシにも幾つか許せない事はあるのよね。
「――アルバニア様!」
 一つはお気に入りのデザートを勝手に食べられてしまう事。
 前にルクレツィアがとっておきのプティングをつまみ食いした時なんて、三年位は戦争だったっけ。
「アルバニア様!」
 二つ目は優しいフリして嘘くさい慰めの言葉を寄越す男。
 誰だかいい相手が出来たのは分かるけどさ、全方位にいい顔するのってあんまりじゃない?
 ええ、ええ。アタシは『嫉妬』ですとも。どっちにしたって殺すけどさ。
 好きな男は綺麗な思い出のフォルダにしまっておきたいもんじゃない?
 何年か経った時、そういえばあんな人もいたなーって。綺麗な夜景とか見てさ。
 素敵なデートしたなとか思い出したいじゃない。ぶっちゃけ、そんな風にしたいじゃん?
 はっは。分かってる。恋したって結局最後はふりだしよ。アタシはどうせ何者にもなれやしない。
 おばかな妹達みたいに接する事だって出来なくて『物分かりのいい次男』でいるしかないものね!
「アルバニア様!!!!」
 ……三つ目は人が物思いに耽ってアンニュイな時、空気読まずに邪魔してくるいけずなヤツ。
 どうしてコイツはこうかなあ? 使える事は分かってるから手元に置いてはいるけれど。
 もう少しだけ融通が利いたらもっともっと素敵なのに。ほんとに、ねぇ?
 ……はいはい、分かりましたよ。御用事なあに?
「……海洋王国側がこの島を発見したようです。
 この辺りは番犬(ドレイク)が邪魔していた筈ですが、今回はどうも奴の『お眼鏡』に叶ったようですな」
 魔種(ミリガンテ)の報告を鼻で笑う。
 ドレイクか。随分会っていないけど……
 確かに便利な男ではあった。海洋王国か、或いは運命そのものか――的すら曖昧なまま深く何かを呪っている彼は何処となくシンパシーがあって……あんまりいい男だからついつい手ぬるくしてしまって――長い付き合いになってしまったものだ。
 ミリガンテが言った通り、彼は謂わばアタシ達の番犬のようなものだった。
 アタシは絶望の青を越えさせる心算はない。彼にも無い。利害は一致していたのだ。これまでは。
「てー事はなあに? ドレイクは海洋の連中――いや、ローレットね。
 ローレットの連中がアタシ達を倒せると踏んだって訳だ」
「恐らくは。或いはこの機に自分で動こうとしているのかも知れません」
 ミリガンテの言葉にアタシは肩を竦めた。
 ドレイクは『越えさせる心算は無い』が『自分で越える心算ではある』面倒な男である。
 妹(ベアトリーチェ)の『やらかし』にはつくづく頭が痛くなる。
 前例を作ればこうなるのは目に見えていた。
 先程も言ったがアタシは優しい性質である。
 そして静かな生活が好きだ。変わらないのが好きだ。
 何かが変わる時、大体それは『変われないアタシを置き去りにしてしまうから』。
「如何なさいますか。御身が出られますか?」
「いやあよ、そんなの。めんどくさい。それに危ないじゃない」
 こっちの気を知ってか知らずか――
 でもまぁ、この失笑は半ば自分に向いたものだ。冠位魔種がどの面下げて。
 しかし、いい女は待たせるものと相場が決まっている。
 庭先をうろつくタコ野郎がローレットに接触したのは知っている。
 大方連中は『廃滅病』の事でも知って焦っているに違いない――
「アタシはもう少し後ろまで引っ込んでおくからアンタ達、ちゃんとここで止めなさいよ。
 奴等の希望が『アタシを倒す事』なら何が一番困ると思う?
 それは『アタシに会えない事』よ。希望を抱いたまま、戦う場所すら無くね。
 緩慢な時間切れを迎えてしまう事に決まってる。
 冠位ベアトリーチェを失陥させたローレットが相手じゃ自信が無い?
 別にいいわよ。格好悪くたって。完全に勝たなくてもアクエリア攻略が遅延すればそれでいいのよ。
 そうしたら向こうは勝手に自滅する。アタシの廃滅下じゃあ、どうせ連中長くないもの」

『希望を持てば未来が変わると信じている』。

 そんな彼等は眩しくて、眩しくて、妬ましい。妬ましくて妬ましくてたまらない。
『大号令』なんてしなければいいのに。とっくの昔に諦めてしまっていたなら、放っておいてあげたのに。
 イノリは嫌な顔をするかも知れないけど、どうせ皆滅ぶんだし。
 アタシが頑張ったって大して変わらないと思ってたし。「君だけが頼りなんだ」とか言ってくれないしさ。
 でもね、こうなってしまったら仕方ない。もうどうしようもなく仕方ない。
 だからね、イレギュラーズ。精々頑張りなさい。
 可愛い妹を引っぱたいてくれたのは半分感謝するけれど、それはそれ、これはこれ。
 アタシの庭を、廃滅する世界を、絶望の青を! ゆっくりたっぷりと満喫してらっしゃいな!

※海洋王国の作戦が発動し『アクエリア』攻略戦が開始されました!!!


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