……
……………
……………………
……あれ、と。一瞬だけ、何とも言えない違和感があった。
気が付けば自分は桜舞い散る学園の並木道に居た。
そう、そうだ。間違いない。自分は私立PPP学園の生徒なのだ。
意識がハッキリすると共に、先程感じたおかしな違和感は雲散霧消し、胡乱とした思考はすぐに活気を取り戻した。
「ボーっとして、おかしなセンパイなのです」
後輩のユリーカ・ユリカが笑っている。
傍らではにかむ金髪の少女と、眠たげな視線を自分に向ける黒髪の少女には見覚えが無い。
「……二人は」
「本当に、どうしましたの」
呆れたように嘆息したのは『蒼薔薇の君』。
学園では一目も二目も置かれる麗しの――リーゼロッテさんだった。
「今日は学園の入学式。私達は新入生のオリエンテーションをするという話だったでしょう?」
「……ああ、そういえば」
そうだ。何故そんな事を忘れていたんだ……
「私、アルエットっていいます」
「……ざんげ、でごぜーます。名前弄りはノーサンキューっす」
ぺこりと頭を下げたアルエットとざんげ。
アルエットは正統派だが、ざんげはまるでハンマーでも振り回しそうな顔をしている。何だそりゃ。
「しっかりして下さいですよ、センパイ! 大方、新発売のPATIMON QUESTで夜更かししたとかなのでしょー?」
我が意を得たりとばかりに「にひひ」と笑うユリーカが小憎らしい。
今日は4/1。新年度の学園生活、自分の最後の一年は一体どんなものになるんだろうか――?
※今年はガチです。
https://rev1.reversion.jp/page/Aprilfool2019_dantyo
https://rev1.reversion.jp/page/Aprilfool2019top_yuri
「さて、他でもない教師一同に集まって貰ったのはね。
新年度を迎え、新たな学生を受け入れた我が校の教育方針を話し合う為なんだ」
校長イノリの言葉に職員室の七人の教師達は互いに顔を見合わせた。
徹頭徹尾何処を切り取ってもクソ企画極まりない今日という日にまともな一瞬でも造り出す気なのか、と。
半信半疑にイノリに視線を向けた三年X組七罪先生達は彼の次の言葉を待つ。
「今の若い子達は昔と違って価値観も様々だし、教師が彼等に寄り沿う為にはまず彼等の気持ちを理解しないといけない」
「ごもっともなお話です」
感銘を受けたようにベアトリクス(黒いの)が頷いた。
社会科、主に公民を取り扱う彼女は校長先生を尊敬している。強欲で公民ってのも乙なもんだが。
「そこで、今日の議題は、今期の覇権アニメが何かを決めたいと思う」
「……は?」
当然、ベアト先生は面白い顔をする。
「wwwwwwwwwwwwそれwwっはwwwっうぇww」
一方で草を生やしているのは体育のバルナバス先生である。
「言いだしっぺの僕がまず提案しよう。僕はこれを推すね。
なんていうか、とてもいいじゃないか。空、落ちてくる少女、爽やかな青春グラフィティ。
本校の凡そ一万五百九十一倍程度、期待がもてるというものだから」
「イノリ殿は王道好きですからなwwwwwww拙者はwwwwこちらwwwww
セラマリ、この作画は本物ですぞwwwwww二期確定wwww
みるきぃ☆くっきぃと並んで約束された勝利の某wwww」
この手の話には一家言持つバルナバス先生が挙げたソリッドな意見に一同が唸る。
「ねこは断然これだにゃー。
同じ魔法少女でもこっちだにゃー」
年上好きかー。
先生達の熱の篭った会議は続く。ベアト先生は白目を剥いている。
「フッ、凡俗共め。貴様等にはモノの価値が分からないと見える……」
「ルスト先生の中二病には困ったもんだよ」
「中二病とか言うな!!! 私は無論、これを推す。諸君もいい加減弁えたまえ。
世の中には萌えの他、燃えもいるという真理をね!」
「うーん、含蓄が深い。まぁ、私はそうだねぇ、しっとりと落ち着いたこれとか。
うん、映画も好きなんだよね。これ何か超大作で期待出来るんじゃないかな?」
「ベルゼー先生、口にクリームついたままですわよ」
「ああ、こりゃ失敬。ルクレツィア先生はお優しいですなあ」
「まぁ、私は。こちらですかしら。
余り真面目に推すとお叱りの声が来そうな所が、危険な私にピッタリです」
イノリ先生に危険な感情を向けるドブラコンな所がピッタリなのです。
「まー、本当に趣味は色々よねぇ。アンタもいい加減諦めて何か言ったら?」
「……………」
顔芸をしたままの自身に水を向けたアルバニア先生にベアト先生はようやく重い口を開く。
「十三きゅん……」
「wwwwwwwwwwwwwwwショタwwwwwww」
「ショタかー」
「ショタだにゃー」
「フッ、ショタだ」
「ショタですわー」
「ショタよねぇ」
場が煮詰まってきた所でイノリ先生が咳払いを一つ。
「そろそろ、昼休みも終わる。一定の結論を出そうか。
では、様々な意見を勘案して一番素晴らしいのは保険の蜻蛉先生で。
ああ、僕は午後、このあといきなり熱が出る予定だから、先生達は皆授業頑張ってね」
――結局アニメ関係ねぇーし!
「いやー、パチクエ楽し過ぎだろ。
何が面白いのかわかんねーけど、もうこれ完全に寝不足深夜のテンションだよな!
ごくごく普通の学生や勤め人が一番頭しっかりしてる時間だと思うけど!
疲労困憊って極めると楽しくなってくるっつーか、毒を喰らわば皿までっつーか。
夜にかけてまだまだイカレて御機嫌な怒涛の展開が訪れるかもしんないから宜しくな!
……あれ? 俺何言ってんだろ???」
レオパル生徒会長「○○○○!」
聴衆「ええー!?」
レオパル生徒会長「○○○○!」
はい、ソングさん早かった。
こちらかツイッターの『#レオパル』に愉快な回答を投稿しよう!
※お遊びDEATH!空
https://rev1.reversion.jp/page/Aprilfool2019_king
https://rev1.reversion.jp/page/Aprilfool2019top_riz
引き延ばされた『一年』がどれ程の永きに渡って続いたのかはもう分からない。
何回、何十回――いや、或いはもっともっとかも知れない――終わらない学園生活を過ごしたのか、答えはまるで霧の中だ。
首がもげそうなハンマー殴打健康診断、暗黒と原罪の呼び声に満ちた修学旅行、洒落にならない鉄帝一武道会に、冬季連続爆破祭り。学園には奇妙な程イベントが満ちていて、その全てが剣呑で、靄がかった記憶の中で踊るのはDEAD ENDばかり。あんなキャッチーでキュートなオープニングを作っておきながら生じた大いなる詐欺は、難度ナイトメアの爪痕。
しかし、クリアは不可能ではない。
これが『ゲーム』である限り――全ての罠をかわし、全ての危険を乗り越え。精神を加速し、技を磨き、強靭なる肉体を備えたならば、かの生徒会長の言った通り決して惰弱に負けはすまい。
終わらない日々を過ごし、数限りない『死』を乗り越えた今、遂に自分は卒業式の日を迎えたのである。
「もうマヂ無理……泣きそ……」
「……センパイ、卒業しちゃうですか。ぐす、センパイ、もう明日からないない」
ジャコビニや、お前が言うと別の意味に聞こえる――ユリーカが瞳を潤ませている。
「卒業しても俺達のジーニアス・ゲイムは終わらないぜ」
マサシ(誰だよ)が気恥ずかしそうに言う。
こいつ等含め一体何回ヤられたかは知れないが、それもこれまでだ。
いい思い出にはならないが、感慨深く頷いてみる。些か暴力的だったとはいえ――彼等との学園生活はダメなばかりではなかった。いや、嘘概ねダメだったが、まぁいい感じの話にステルスしておこうかなって局面である。
「……あれ」
そう言えば顔を出さない『蒼薔薇の君』の事を思い出した時、鞄の中に手紙が入っている事に気が付いた。
――伝説の木の下で待っています――
ラスボス、キヤガッタ。
とってつけたみてーにギャルゲー風にしやがって!
端的に用件のみを告げる手紙。
額からダラダラと零れ落ちる汗。息切れ、動悸。
まさか卒業式のこの日に、いやまて。落ち着け、まだそうと決まった訳じゃない!
→しゃあねえ、覚悟を決めて行く!
伝説の樹の下で
――と、告げたら、あなたはとんでもない顔をしたのです。
まるで想像していなかったかのような。
別の何かを想像していたような。疑うように私を見ました。
……本当にひどい人です。
私がタイを曲げたのも、あなたにばかりツンツンしたのも、そんなの全部。
最初から、理由なんて一つしかないのに。決まっているのに。
――なんて、もっともっと早く。分かってくれても良さそうだったのに。
照れたようにあなたは頭をかきました。
半ば諦めたように、笑います。私はそんなあなたの笑顔が――で。
だから、もうずっとずっと胸が一杯で。
卒業式のこの日まで、待てない位に伝えたくて。
ええ、ええ。
馬鹿だって笑って下さいまし。
リーゼロッテは、もうずっとあなたに――あなたに伝えたかったのです。
眼を閉じて、唇を上に向け……万感を込めて今その一言を伝えるのです。
「ふりだしへもどる」
そうだろうな!!!