『FarbeReise(ファルベライズ)』――ラサの砂漠地帯に⾒つかった遺跡群の名前である。
その場所には光彩の精霊と『願いが叶うお宝』の御伽噺が存在しているそうだ。御伽噺を信じるほどに『緋狐』チー・フーリィは夢⾒がちではない。然し、その御伽噺が真の事であったというならば――
ラサは『有⼒傭兵団⻑による多頭合議制』による国家であり、『⾚⽝』と呼ばれるディルクが実質的な指導者の座についてはいるが、王ではない。必要に応じて⾏われる商⼈と傭兵による会議の場で議題に上がったのがこの遺跡群の事であった。
「願いを叶える、と⾔われて簡単に信じる商⼈はいない。勿論、それが商⼈としての必要な才だ。信ずるべきを選び、的確に商機を⾒出す。……だからこそ、⽤意した」
そう⼝にしたのは有⼒商⼈の筆頭たるファレン・アル・パレストである。彼の背後ではその巨躯を屈めて退屈そうにしていた『凶(マガキ)』のリーダー、ハウザーが⼤⽋伸を⾒せた。
「ハウザー」
「……おうよ」
窘めるファレンの⾔葉に溜息を混じらせたハウザーが⾰袋をテーブルへと投げて寄越す。
がしゃりと⾳を⽴てた⾰袋には輝かしき宝⽯が数個乱雑に放り込まれていた。
「これが『願いが叶う宝』? ⼀⾒すれば普通の宝⽯のようだが……」
座についていた商⼈の⼀⼈ラルグス・ジグリは袋から宝⽯を取り上げてまじまじと⾒遣った。
「その姿は関係ない。宝⽯もあれば、ティアラやリング。はたまた剣のような物さえも存在するようだ。まあ、これはファルベライズを探索した特異運命座標からの報告だが――」