「――そういう訳で意見を伺いたいね」
ローレットを含む幾つかの重要施設には神託の少女ざんげと繋がる映像通信装置が設置されている。
ざんげとコンタクトを行える個人は多くはなく、幻想国内で言えばローレットのギルドマスターであるレオン・ドナーツ・バルトロメイと大司教であるイレーヌ・アルエに限られている。とは言え、イレギュラーズ(及び『バグ』であるレオン)は、空中神殿に直接赴く事も出来るのだから、彼等にとってそれは然して特别な機能と呼ぶ必要は無いのだが。
「意見とゆーと、例のサーカスについての話でごぜーますか?」
「そう。そのサーカスについて、だ。ぶっちゃけ連中は『魔種』なのかどうか。
オマエに分かるかどうかは知らないが、例の『滅びのアーク』は『空繰パンドラ』の対なんだろう?
後生大事に溜めてるパンドラに悪影響や、逆の要素が感知出来るなら、一つ情報にはなるだろ」
「用がある時しか顔出さねーですね」と淡々と言ったざんげにレオンは「用がなきゃ相手にもしねぇだろ」と応じ、直接的に本題を投げかけた。『滅びのアーク』は『空繰パンドラ』と対照的にこの世界を終わりにする可能性――より厳密に言うならば『パンドラという希望を打ち砕く可能性』を蓄積する神器であるとされる。ざんげ曰く魔種の王とでも呼ぶべき人物が持っている、との事であるが、レオンですらも余り多くを語られてはいない。このざんげが語りたがらないのは酷く珍しい出来事なのだが。
硝子球のような無機質の瞳は神託の少女の『本質』を余り外に伝えない。
「予めお断りしておくですが、私に『魔種』を感知する力はねーです。
レオンの言う通り『滅びのアーク』の加算自体は確認出来るですけれど。
まぁ、この世界から魔種が絶滅しねー限りそうなります。してねーので当然とゆー話で。
その上で結論から申し上げますと、一連の事件に魔種が絡んでる可能性は高いです。
それで、現在世界中で起きている『事件』を見ていくと幻想国内の大混乱が一番でっけー事件です。
同時に滅びのアークの加算値が跳ね上がってるんで……恐らくは。
まぁ、本当に断言出来ねーのが非常に申し訳ねーのですが」
神様やその託宣というものは往々にして身勝手で使い勝手が悪いものだが、それはざんげでも同じようだ。
「成る程ね。つまりこう言いたい訳だ。
『サーカス自体が魔種かは断言しかねるが、事件には魔種が関わっていると思われる』。
まぁ、ストレートに考えるなら全く無関係って訳でもねぇだろうがな」
「そういう理解の仕方しか出来ねーので、話が遅くてすまねーです」と頭を下げたざんげにレオンは笑う。
「まぁ、そう簡単に話が済むとは思ってねぇよ。
神託ってのがそんなに便利なら最初から苦労はねぇし、ローレットも不要だ。
それにオマエが確認している間にこっちも幾つか事件を解決して――話の流れは掴んでる」
「……どういう事でごぜーます?」
「一連の猟奇事件の下手人がおかしな事を言ってんだよな。
『神の声を聞いた』だの『衝動がどうこうだの』。『原罪の呼び声』ってのと一致するだろ。
元から頭のおかしい殺人鬼は兎も角、美人三姉妹の神のお声はまったくもってそれらしい。
うちの連中が上手くやったお陰だ。水先案内人(オマエ)としても嬉しかろうよ。
まぁ、兎に角。ほぼ断定だ。オマエの話とこっちの話で、犯人は魔種野郎だってな。
サーカスが白か黒かは知らんが、取り敢えず排除すべき対象なのは間違いない。
これで事件と何の因果関係も無かったら土下座して詫びても足りねぇが、まずねぇよ」
「レオンの勘、でごぜーます?」
「その通り」
「成る程、じゃあ多分当たってると思います」
頷いたざんげはレオンの言葉に納得したようだった。
魔種が大規模な活動をする事はこの二十年にも無かった出来事である。ローレット設立以降、レオンは常にその相手を警戒していたが、それが現実のものになったのは今回が初めてである。大規模召喚が世界の悪足掻きだとするならば、加速し始めたこの流れはそう簡単に止まる事は無いだろう。
「この後、ローレットはどう動くのです?」
「まぁ、プランは無くはない。戦力強化や準備もしてる。
だが……まぁ、正直いい手は無いな。
選択肢が足りないと言うか、サーカスは国王のお気に入りだ。
このクソ国で逆転打を打とうとするなら、多少の問題は避け得ないが、国王はまずい。
……俺の読み通りなら、その内事態は動く筈だ。無論、悪い方向にだが、そこからやっと打つ手が増える。
ま、上手くいくかどうかは分からん。取り敢えず思い切る意味でも確信が欲しいのは山々だ。
サーカスに絞ってくれてもいい。何とか連中が魔種であるって結論を頂ければ、こっちとしては捗るね」
※ローレット・トレーニングが大成功を修めています!