ベアトリーチェ・ラ・レーテが人の像を喪った時。
彼女より噴き出した闇は一帯に拡散し、空を覆った。
黒霧が自身とは真逆の属性を帯びている事をイレギュラーズ達は本能的に察していた。
即ちそれは<滅びのアーク>を媒介する意志を持った呪いである。
彼女は『強欲』だから。
滅びても、世界を諦めない。愛を諦めない。
『胡乱と思考さえ持たない悪意』が人智の外より世界を蝕む。
「……っ……!」
息を呑んだのは誰だっただろうか。
戦場の誰もが疲労困憊で余力を持ち得ない。
形を失った悪意がこれより何を始めても、阻止する術は無い――
……だが、そんな『彼女』を冷然と見つめる者が居た。
「……………」
闇の空より眼窩の全て、眼窩の愚かを見下して。
「……塵芥に敗れるに飽き足らず、アークをばら撒く等とは。いよいよもって『冠位』の面汚しめ」
吐き捨てた男――ルスト・シファーこそ『真の傲慢』。
彼は同属の――認めてはいないのだが――敗退にこの上なく憤慨していた。
<滅びのアーク>を無駄に垂れ流す事は許されない。
さりとて、天よりも高い彼のプライドは『不肖の妹』の『食いさし』風情を相手にする事も許さない。
ルスト・シファーは神経質に怒り、苛立ち、魔性を纏い、解放する。
「せめてこれは感謝するがいい、ベアトリーチェ。イノリはこれを望むだろうさ」
静かな嘲笑と裏腹に世界は軋み、鳴動し、『誰もそうと知らないままに捻じれて歪む』。
大いなる力を以って、世界に拡散した闇を――唯の一撃で消し飛ばした。
拡散した闇が突然消滅したのはイレギュラーズにとって不可思議極まる出来事であった。
絶体絶命に次ぐ絶体絶命、されど残されたのは静寂のみ。
「終わったのか……?」
思わず問うてしまう程に懐疑的な一言。
答える者は誰も無いが――それ以上の異変は何処にも、何も起こらない。
故にこれは終わりだった。
決戦の最中、エルベルト・アブレウの勢力が姿を消した時点で。
今日は――フォン・ルーベルグを襲った史上最大の厄災は、きっともう『おしまい』だった。
<冥刻のエクリプス>ベアトリーチェ・ラ・レーテにて『冠位強欲』が撃破されました!
フォン・ルーベルグ決戦はイレギュラーズの勝利です!