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「猊下、ご報告が」
部下を部屋の入り口に立たせたまま、アストリア枢機卿はワインボトルを眺めていた。
「猊下、何卒」
「忙しい、後にせよ」
返答は間髪入れず。
「それが……火急の」
「なんじゃその束は、申してみ」
声のトーンを一段下げ、アストリアは椅子へと腰掛ける。
ワゴンに載せられた羊皮紙は、正に山のようであった。
「聖獣様と銃士がイレギュラーズに襲撃を受けている模様」
返答はない。続きを促しているのであろう。
――アストリアは押し黙り、視線だけを突き刺す。
銃士は咳払いすると、報告書を読み上げた。
「……脚部の特徴からデイジー・リトルリトル・クラークと思われます。
また舞音・どらなる聖人様が……」
「聖人……じゃと!?」
アストリアの声が怒気を孕む。
「い、いえ。おそらくは何か報告の間違いであるかと。またこちらの報告書ではその戦いぶりからシルヴィア・テスタメントであると予測されており」
「なにがテスタメントじゃ! 罰当たりな! まだ有るのか!」
銃士が額に汗をにじませる。
「調査に手間取った数名。こちらはおそらく君影・姫百合、白 薔薇、天狼 カナタの三名であると思われ……」
銃士が顔をあげると、アストリアが立ち上がる。
「時に汝、その足はどうした」
「何でも御座いません!」
「遠慮をするでない、近う寄れ。
正義に邁進した故のことであろう。妾とて聖職の端くれ。癒やしの奇跡程度は施せよう」
「勿体なきお言葉」
「ここには汝と妾以外におらん……妾の特別な時間を進ぜるのもやぶさかではないが」
アストリアは触れるほどの距離に近づき、銃士を下から見上げた。
「げ、猊下!?」
「だめかの?」
小首を傾げる。
「さ、足を見せ」
観念した銃士は天井を仰ぎ、生唾を飲み込んだ。
――ッ!!!
鈍い音が響き、銃士の身体がくの字に折れ曲がる。
杖先が突いたのは向こう脛であった。
「ククッ、ハハハハ!!」
銃士は唇を戦慄かせながらも横一文字に引き絞る。
「なんじゃクワイアも出来んのか。汝は何が出来るのじゃ」
あざ笑うアストリアに銃士は戦慄くが。彼女は構わず手拍子を始める。
「冗談じゃ。笑え!」
「ハ、ハ、ハハハハハ!!」
やけくそな声が響いたが――――
「ふざけるでないわ!」
アストリアは杖を突如振り上げ、銃士の肩を強かに打つ。
「もうよい、寄こせ!」
羊皮紙の束、束、束。全て合わせれば少なくとも千は数えよう。
「なにが正体が知れぬ女じゃと!?
この彼岸会 無量なる者と明らかに同一ではないか! たわけめが!」
殴打。
「エストレーリャ=セルバ……なにがエストレーリャじゃ、不遜な名をしよって!」
殴打。
「それからなんじゃ! これは! 何枚ある! 同じ、同じ、これも同じではないか!!」
殴打。殴打。乱打。
「コレット・ロンバルドは幻想遊楽伯爵のアトリエに多数の目撃情報とは、何じゃ。巫山戯よって!」
部屋は既に滅茶苦茶な有り様となっていた。
「コレット、エストレーリャ、無量……か!」
暴れに暴れたアストリアは肩で息をしながら吐き捨てる。
「先の小僧共も然り! 妾の邪魔をしよって! おい、何をしておる!!」
尻を蹴り上げる。
「草の根を分けてでも探し出せ!!!」
床に投げ捨てられた薬を拾い、銃士は足を引きずりながら駆けだした。
※『期間限定クエスト』が発生しています。
※アストリア枢機卿の部隊に甚大な被害が発生しているようです。