聖都に蔓延した狂気、そして公然の『禁忌』の中で彼は確かに求める者を見た。
神が為の歌姫――宗教国家である天義なれば『そう言った例』は珍しくはない。
うら若き乙女が聖女として担ぎ上げられるように、魔と通じ合う者を魔女と弾劾するように。
信心深きエストレージャの一族は神が為に人柱を捧げ、その歌の力に優れる一族の者を神の所有物が如く座敷牢へと幽閉していた。
無論、エストレージャ家の私設騎士団長であるカマルはその歌姫が座敷牢より逃げだした事を知っていた。その血塗られた歴史もだ。
そうした中で彼は一人の女の黄泉還りに直面した。
不正義により断罪された一人の聖人『だった』者。
――聖マルティーナ。
貴族を陥れることに執着するという悪癖から、いたずらに破滅させ立身出世の踏み台にしてやった女だ。
過去を明るみに出す訳には行かなかった。
処分を検討する中で彼は、いずれ敵となるであろうローレットの利用を思いついた。
そこに居たのだ。かの姫君が。
策を捏ね、奪い去る算段をたて――結果として彼はローレットに救われるはめになった。
自嘲し、毒吐く。
いささか保身が過ぎたろうか。しかし立場という物もある。あの場ではそうするしかなかった。
己がしくじりに気が立ち八つ当たりもしてやった。
己が見立てに寄れば、この国はこれから魔境と化す筈だ。
チャンスというものはいくらでも転がってくる。
ならば次のカードを伏せよう。
姫君を手にし己が主人を破滅へと導くまで。
全ては――我が栄光のため。
その胸には確かに毒の花が咲き誇る。
※『期間限定クエスト』が発生しています。
※アストリア枢機卿の部隊に甚大な被害が発生し続けているようです。
※天義市民からローレットへの評判が、激闘を続けるイレギュラーズを中心として飛躍的に高まっているようです。