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聖堂会議

「やれやれ……一体全体どうなっていやがる?」
 鉄帝国のある聖堂……統一された法衣に身を包んだ者達がいた。
 その集団はクラースナヤ・ズヴェズダーという教派に属する面々だ。鉄帝国に存在する『身分や生活水準の平等を掲げる』彼らが拠点ともしている場所で、吐息と共に口火を切ったのは彼らの長――
 大司教、ヴァルフォロメイである。
 老練な佇まい。教派の聖典を片手に集まった面々へとゆっくりと視線を巡らせ、切り出した会話の内容は……昨今の鉄帝のスラム地帯を中心に進められている『ニュータウン開発計画』の事である。
「最初は只の都市再開発計画という話だった筈だ。国家の内政政策の一つ……都市交通網の見直し、住宅街の再建設。その為にスラムの住人には一度立ち退いてもらう必要がある、と。その為に俺らにも住民への説得協力の依頼があった訳だ」
 それはいい、だが。
「実際にはどうだ? 軍主導計画の筈が、どこの者ともしれねぇ輩も現れてスラムの住民に強引な立ち退きを迫っているらしいじゃねェか――この時期の外に放り出されてみろ。幾らこの国の民だからって耐えられねェ者もいようよ」
 鉄帝の民は強靭にして精強。それは極寒の大地に鍛えられたが故でもある。
 過酷なる地への耐性を得ている者が多いという訳だが……それはあくまで『環境に強い』というだけであって『無敵』という訳ではない。劣悪な環境に長時間いれば死に瀕する者も当然いよう。特にスラムの住人など他に行く所が無い者達ばかりであり――
「俺は。いやクラースナヤ・ズヴェズダーはそんな『追い出し』に加担したつもりはねェぞ」
「……仰る通りです大司教。我々が軍から受けた話と、些か異なる点があるようですな」
 ヴァルフォロメイの断ずる言に続いて、言葉を重ねたのはダニイールという男だ。
 元帝国の内政官にして現在は教派の一人でもある彼は、軍から打診があったニュータウン開発計画に前向きな意志を示していた。軍はスラム住人達の説得の為、民に寄り添っているクラースナヤ・ズヴェズダーの協力が欲しかったのだろう。
 意図は理解できるし開発計画にも確かな効果と意味があるとダニイールは踏んだのだが。
「民の中には不安になっている者も出ている次第です。幸い、と言うべきか……ローレットのイレギュラーズが未然に事態を防いだ件が幾つか確認されており、助かっている者もおります」
「おお、ヴァレーリヤも所属しているローレットだな!
 アイツらには本当に助かるもんだ。国内の勢力だと色々としがらみってヤツもあるからな……」
「はい。曲がりなりにも軍の計画である以上、半端な組織では介入を避けますでしょうから」
 怪しい動きが確認されている、と言ってもやはり表向きには『軍』の計画だ。
 軍に好きで睨まれたい者などそうはいまい。ローレットの様な特殊な立ち位置の者達がいてくれた故にスラムを襲う横暴の幾つかが排除された訳である、が。

「だがよ、当事者の俺らがローレット任せで放置とは筋が通らねぇ。スラムで起こっている件は話を持ち込んだショッケン将軍に確かめないといけないだろう。俺自身が出向いてでも、な」

 それはそれ、これはこれだ。
 ローレットのおかげで助かった者がいる、だからよし! ――で済ませては根本的な解決にならない。鉄帝に住まう者として、そして開発にも協力と言う形で携わっている長の身として自らも動かねばなるまい。聞いた話によると子供達にまで被害が出ているとか……行方不明者の出る再開発計画など冗談でもない故に。
「しかし……彼は皇帝陛下の遠征に従事しているとか。戻って来るまではなんとも難しいかと」
「あぁ、手紙で片付けられる内容でもねェからな。たしか……年を過ぎてからだったか」
 帰還の予定は、と言葉を続けて。
 今頃海洋の領域で皇帝ヴェルス自らが親征した――第三次グレイス・ヌレ海戦が繰り広げられている所だろう。勝敗がどうなるか、国内にいるヴァルフォロメイには分からないが……ニュータウン開発計画を持ち込んだ責任者のショッケン将軍も赴いている以上、軍勢が帰還するまでは待つしかないのが現状だ。
「計画の影にちらほらと見える連中の事を、少なくとも存在を把握してないとは言わせねェ」
「対応せよ、と?」
「少なくとも『誠意ある態度』は期待したい所だろ」
 クラースナヤ・ズヴェズダーはあくまでも民の為の教団だ。
 軍には協力しているのであって、今回の件で配下になっている訳ではない。
 民への横暴を見過ごすというのならヴァルフォロメイとしても考えがあり――

「ショッケン将軍の不信を皇帝陛下に直訴申し上げる。
 ま、俺も大司教として色々人脈や伝手はあるんでな。将軍が黒なら――俺に任せておけ」

……鉄帝首都で何かが動きを見せています


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