その日、『蒼の貴族令嬢』テレーゼ・フォン・ブラウベルク( p3n000028)は云っていた。
オランジュベネとブラウベルクは『そういうモノ』であるのだと。
「……はぁ……困るよねぇ、こういうのってさ……いい大人が逆切れしてさ……」
気怠げにそう告げた『壺焼きにすると美味そう』矢都花 リリー(p3p006541)は殻に引きこもってはいられなかった。
ギルティなのだという彼女はローレットが対処するもう一つの事件――幻想種の誘拐――の事を思い出したかのように「……めんどう……」とぼやいた。
「まあ、面倒な事には変わりないけどさ、誰かを護れってならアタシたちが護るしかないと思うんだ」
痛む体を労わる様に『チアフルファイター』ミルヴィ=カーソン(p3p005047)はそう呟いた。
朝朗けの空を見遣るミルヴィはふと思い出したようにテレーゼへ行った。
「黄昏時って言葉があるじゃん? あれってさ、誰そ彼って書くんだってね?」
「……ええ、そうですね」
「それって、夕暮れで顔の識別がつかないから、誰ですか? って意味で『誰そ彼』っていうらしいね」
それは、統治者のなくなったその空白地帯を見遣るかのように静かな声音であった。
「――本来の敵って、誰だったんだろうね」
伯父と姪。
その関係性の糸が途切れた時に相手を誰と思うか――不倶戴天の敵の魔種だと断罪するか、それとも誰かを傷つけた人間として認識するか。
案外、その区別は難しいものではあるのだが。
テレーゼは首を振る。
「私は、領地領民を統治する者として、彼らを己のいのちだと認識しています。
彼は己(わたし)と私の大切な友人を傷つけた。そこに一寸の揺らぎもなく、許すまじと認識していますから」
そう口にした少女は、ふと、窓の外を見遣り息を吐いた。
「皮肉にも我が領地――いえ、我が領地の属するこの国でも幻想種の奴隷の売買が行われています。
……何事も、儘ならないものですね」
未だ蠢く二つの影が仄かな光の下、僅かに交錯し合い、少女の蒼天の色の瞳に閉ざされた。
※幻想にて新たな影が暗躍し、深緑ではザントマンの噂が広まりつつあります。
依然として幻想種の誘拐事件は続いているようです……