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鉄星会談

 巨大な鋼鉄艦は今や波間に浮かぶ脱出不可能の鉄の檻である。
 穏やかな海洋近海(グレイス・ヌレ)は荒れてはいないだろうが、寄せては返す波が揺り籠のようにそんな監獄を揺らしていた。
「ああ、皆揃って……無事、とも言えないわよねぇ、これ」
 雨宮 利香(p3p001254)の言葉に苦笑いが混ざっている。
 先の戦いで口惜しくも捕虜となった十七人のイレギュラーズが再会したのは鉄帝国艦隊旗艦『アイゼン・シュテルン』の一室だった。生活スペースの手狭な軍艦の中程に緊急で用意された部屋は牢獄と呼ぶには居心地が良く、さりとて長居したい場所かと言えば当然そんな話にもならない場所である。
「何時間経ったかな」
 銀城 黒羽(p3p000505)の呟きに答えは返らない。
 部屋には灯りが点されていたが、窓も時計の類もないから客観的に時間を証明する手段は失われている。
 何よりイレギュラーズがこの場所に放り込まれたタイミングはそれなりにバラバラだった。中には意識を失った状態でやってきたケースもあるから、尚更の事である。
「取り敢えず、今は彼方さんに従うしかねぇな。
 何せさっさと殺されなかったんだ。
 俺達も利用価値がある分――そうだな、交渉材料に使われるのが鉄板だが……
 内容次第じゃ話し合う余地もある。海洋の方もなーんかキナ臭いんだよな。
 ……例えば、今回のアセイテ提督の件とかよ」
 部屋はそれなりに広いが十七人では手狭である。
 あてにならない時間感覚と不安感に支配された場所は独特の息苦しさに支配されていた。
「ああ、海に帰りたい……」
 戦場で会敵したあのリーシュヌカに身一つで菓子等ねだられたらどうしよう、と。
 幾ばくか海洋民らしい緩い心配をするベーク・シー・ドリーム(p3p000209)、
「ここで諦めてローレットや海洋に迷惑をかけるわけにはいかない。
 ……全員で生きて帰るために、今できる最善を探そう?」
 鉄帝国の見張りに許可を取り、傷付いた仲間達に最低限の治療を施したポテト=アークライト(p3p000294)、
「そうだな。このままでは信頼してくれたイザベラ様に……
 おかしな話にされてはレオン様、レオパル様に顔向けができない。気を張らないと」
 その夫であり誰もが知る騎士らしい騎士であるリゲル=アークライト(p3p000442)、
「脱出でも出来れば良いのですが」
『敢えて見張りに聞かせるように』そう言ったプラウラ・ブラウニー(p3p007475)の顔は何れも険しく。
「あの方の笑みに一筋でも瑕疵が付ける等。こんな狼藉、こんな屈辱、自分で自分が許し難い!」
 イザベラ忠勇の男・秋宮・史之(p3p002233)に到っては輪をかけて憤怒にも近い表情を浮かべていた。
 そんな深刻な面々の一方で「まあまあ」と執成す人間も居た。
「海洋が拙者達を見捨てる事は考え辛い。
 鉄帝としてもイレギュラーズを処刑するよりは――
 そうです。ローレットに返して恩を売るないし召し抱える方が断然お得ですから。
 まず命の危機はないでしょう。この予想に反した場合、事ここに至っては元より是非もございますまい!
 何よりヴェルス殿が未来の嫁たる拙者を殺す事などありえません!
 そんな展開は士道不覚悟、切腹です故!」
「いや、立場こそ違えたとはいえ――ワタシも鉄帝国軍人の一人であります。
 まがりにもローレット参加、特異運命座標としての活動は国も軍も認めた御墨つき、酷く悪いようにはされないかと思いますが」
 夢見 ルル家(p3p000016)やハイデマリー・フォン・ヴァイセンブルク(p3p000497)の楽観論の根拠は状況から良く知る人物の補正――ルル家の方は些か過剰に希望的観測だが、ハイデマリーに関しては彼女を捕えたのは父であり仲間でもある――を差っ引いたものであり、こちらも言われてみればその通りである。ハイデマリーの場合、それとは別に父に知られた『魔法少女』なる言葉に戦々恐々としないといけないのは追加で背負った十字架と言えるのかも知れないが。
「結局はまぁ――状況としては大体想定通り。
 蓋然性は高くとも余り良い方の想定では有りませんが、この先は『分からない事が分かった』と。
 はて、ことこの状況に到ってはかの提督を殺害出来なかったのは+か-か――」
 ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)の言葉は鵺のようである。
 状況は混沌としており、悲観も楽観も入り混じるのは当然の事と言えた。
「鉄帝国の気質は嫌いじゃないですし。悔しく無いと言えば嘘になりますけど……」
「動きが見られるまで座して待ちましょう。お茶など嗜まれる方ならば、お話も弾むやも知れないのですが」
 利香の言葉に居住まい正しく正座した雪村 沙月(p3p007273)の言葉が至言だった。
「何なら私が点てるのも吝かでは……」
 鉄帝国が風流を愛するかは知らないが、沙月の茶なら一顧だにせぬ男もそうはいまい。
 閑話休題。武装を取り上げられ、武力に訴えても勝ち目がない。下手な刺激をすれば危険は不可避。
 ならば一同に残された『出来る事』は状況をつぶさに観察する事、何かあった時の為に考えを巡らせる事、その時の為に少しでも体力・気力を残しておく位しかない。『何もしない事をする』のが中々忍耐を要するのは誰もが知っているのだが。
 さて、そんな焦れる時間が何時間過ぎた頃だっただろうか。
 イレギュラーズにとっての福音か、悪魔の宣告か。
 変化は鉄扉の軋み音と共に現れた。
「これはこれは。皇帝閣下自らの鉄帝へのご招待、痛み入りましたよ」
「くつろいでくれているようで何よりだ。強く殴りすぎちまったかと思ってたが、随分と元気で安心したぜ」
「ええ。皇帝陛下は随分と『紳士的であらせられました』からね」
 ヴェルスが相手でも、艶やかな皮肉と減らず口は恐らくは何処までも持って行く夜乃 幻(p3p000824)の武器なのだろう。
 皇帝ヴェルス、提督ミハエロ、エヴァンジェリーナ・エルセヴナ・エフシュコヴァ(p3n000124)、レオンハルト・フォン・ヴァイセンブルク、ビッツ・ビネガー(p3n000095)……
 イレギュラーズの前に現れたのは唇を歪めた幻を含めた十七人を捕縛した現場に関係の深い五人の鉄帝国関係者達だった。彼等は何れも鉄帝国の主力でありこの戦争における重要人物(キーパーソン)である。それが一堂に介したからには状況が動くという事に違いない。
「ようやっとお出ましだな。
 言っとくけど俺は鉄帝のやり方は気に食わないし、従えと言われても俺は従うつもりはない。
 だが、帰りたい理由もあるんでね。解放と引き換えの交換条件があるのなら内容次第では引き受ける。
 結局、アンタ達は俺達をどうしたいかって話になる」
 そう切り出したクロバ=ザ=ホロウメア(p3p000145)の脳裏を過ぎったのは愛しの銀色。
 強いようで居て――それだけではない。彼女を他ならぬ自身が傷付けたのでは男が廃るというものだ。
「けど覚悟しろ。アンタらが俺の大事なものに危害を加えるなら俺は何をしたってお前らを皆殺しにする。
 俺は死神、俺が従うのは家族と、誰よりも愛する人のお願いだけだ。
 帰るべき場所はある。その為に利用はするがアンタらに尻尾を振る気は――文字通りゼロだ。覚えとけ」
「同感だ」
 クロバの言葉に呼応したのはこれまた跳ねっ返りのシラス(p3p004421)だった。
「元々、好きで戦争に首を突っ込んでやられたんだ。命があるだけ感謝さ、人質なり何なり好きにしろよ。
 でも言いなりにはならねえぞ。絶対にならねぇ!
 俺は『ローレットの冒険者』なんだよ、ヴェルス・ヴェルグ・ヴェンゲルズ!
 アンタが『皇帝陛下』であるように、俺は俺でしかないんだ!」
「やーだ、何。超熱い。何この子達ホントかわいい!」
 無謀な啖呵にしか思えない二人にビッツが甲高い声を上げた。
 見ればプラウラがそんな前のめり過ぎる二人を庇うような所作を見せていた。
 レオンハルトとミハエロは顔を見合わせ、
「あ、あ、あああああの、そのお、恐らく彼等は気が立っているだけで……!」
 エヴァンジェリーナだけがイレギュラーズを庇おうと顔を真っ青に染めている。
 クロバにせよ、状況を注視する忠之にせよ、リゲルにせよ、幻にせよ、そしてプラウラにせよ。
 ワンフォーオール。誰か一人を見捨てて逃げる、誰か一人でも殺させる心算等微塵も無い。許せない。
『いざ』となれば己が命を捨ててでもこの状況を何とかする――奇跡を願うだけの覚悟は有していた。
 気まぐれな天がそれを叶えるかは神ならぬ誰にも知れないが、少なくとも踏み込む事だけは決めていた。
「……それで、話は多少脱線している感はありますけれど。
 我々は交渉の材と言った所でしょうか? 最近は鉄帝内も不穏な様ですから、その辺りの助力とか?
 何れにせよ、斬れと言うのであれば、幾等でも。”誰”とでも」
「感謝するぜ、お嬢さん。俺が老婆心ながらローレットにアドバイスするとするなら、だ。
 そこの二人は絶対に重要な交渉とかに出すんじゃねえぞって事な」
 落ち着いた調子の彼岸会 無量(p3p007169)の声色にヴェルスは苦笑交じりに冗談めいた。
「何をさせるも何も、アンタ達、まず自分の立場、それから俺達の立場をまず考えろ。
 アンタ達は言ってしまえば金で海洋に雇われた傭兵で、俺達の戦争相手だぜ。
 俺達の大義を問う前にアンタ達に大義何てない。
 捕まって怒るのはもっともだが、アンタ達一体うちの兵隊を何人叩きのめした? 船を幾つやった。
 それで誰も怪我をしてないと思うか? 誰も死んでないと思うか?
 ……いや、それは責めてない。それでいいんだ。軍人は死ぬのも仕事。それで食ってる。
 戦いたいから戦った、そっちの少年の言う通りだろ。それで負けて捕まって……
 言う事を聞く気がないだの、これからどんな非道な事をするんだだの構えられてもこっちが困るぜ。
 この後、何をされたってそんなもんは『当たり前』。首突っ込んで負けたアンタ達の自業自得だ」
 ヴェルスは「ただし」と続けた。
「俺が――鉄帝国がアンタ達を拷問したり殺して何か得があるか?
 何もない。第一、うちの兵隊だって同じように捕虜になってる連中も居る。
 そいつらの身の安全や行く末を心配してるのは俺もお前達の仲間と同じって訳さ。
 だからアンタ達は俺達がこれから多少なりとも本懐を果たす為に必要なんだよ。
 何たって戦果(トロフィー)だからな。ここまでは分かったか?」
「オレは死にたくない!
 ハラ芸は苦手だから率直にどうすれば助けてもらえるのか教えて欲しいな!
 ローレットとして出来ない事もあるからヤス請け合いは出来ないけど!」
「やっぱり、そうなるよね!」
 恐らくはイグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)の直球の一言はこの場において大いに間違ってはおらず、ヴェルスの言葉に合点出来たのは可憐な見た目よりは随分と鉄帝国寄り(のうきん)らしい割り切りが似合うセララ(p3p000273)である。
「じゃ、この場合、捕虜解放に見合う提案すれば良いのかな。
 ボク達は世界を救う。どんな強敵でも絶対に打倒する! この命に代えても!
 どう?鉄帝には最高のメリットだよ。
 それに今なら冠位が相手でも鉄帝が襲われたら絶対に助けに来る、までつけちゃう!」
「それ程までに自信たっぷりに――いっそ清々しい位だな、娘!
 だが、我々は一方的な助け等求めぬぞ。共に戦う友軍ならば歓迎するがな!」
「全く。良い友人を持ったと言いましょうか」
 セララの言葉に快哉を上げたミハエロにレオンハルトが微笑んだ。
 彼の視線の先にはセララが、ハイデマリーがおり、ハイデマリーは当然ながら顔を伏せている。逃げたい。
「結論を言おう。簡単に言えば俺達がアンタ達に望むのはまず『邪魔をするな』だ。
 アンタ達はきっと海洋でかなりの仕事をしてきたんだろうな。海洋王国側はこちらの言い値を呑んで、アンタ達の返還の為の交渉テーブルについた。その内ソルベ卿がやって来て今回の戦いは講和になるだろうさ。
 だが、アンタ達が変な真似をすればそれは全部ご破算になる。
 いや? 『俺達が来る前にアンタ達が無残な暴発をしてたらもう殺す以外には無かった』。
 そうならなくて安心してるし、嬉しいぜ。
 何せその為に取り敢えずこっちはこっちで話を纏めてこうしてやって来たって訳だからな。
 いいかい? 生きるだ死ぬだこんな穴蔵で熱くなるなよ。それは戦場の方が気持ちいいぜ」
「第二に。こちらは――交換条件、とまでする気はない。
 故にあくまで『出来れば』の話になるが――
 戦後、我々をこれだけ手こずらせたローレットとイレギュラーズを見込んで頼みたい事がある。
 鉄帝国内部で昨今重要な議題として上がっているスラムとモリブデンについての話なのだが。
 故あって鉄帝国が、或いは軍が公式に動く事は混乱を呼ぶ可能性が高い。
 何でも屋――ローレットの『本領発揮』を頂きたい理由がある。
 もし、今回諸君が無事に帰れた事を恩と思うなら、海洋王国のみならず一瞥でもくれてくれれば重畳だ」
「オレは鉄帝出身だけれど最近スラムのジケンのことがあって軍部に不信感がある。
 だから今回、海洋に付いた位だ。鉄帝は好きだし……
 もっといい国になって欲しいし、オレも力になりたいけれどね」
「ああ」とイグナートに応じたレオンハルトの歯切れは悪い。
 彼は居心地悪そうに襟元を直し、「詳細は無事に戻れたら資料でも確認して欲しい」と話を結ぶ。
「では、そういう事でいいですね? ならば、ここからは拙者のターン!」
 緊迫する場を滅茶苦茶にしたのはやはり言わずと知れたルル家である。
「ところで、ヴェルス殿!
 好きな女性のタイプは! 食べ物は! 私的な資産は以下ほどで!?
 士官はお断りします! 禅譲なら喜んで!」
「コイツ何時もこうなのかよ」
 ヴェルスの言葉にイレギュラーズは悲痛に頷き、お陰で場に人心地が戻っていく。
「そういえば」
 殺気の薄れた会談にヘイゼルが涼しい調子で声を掛けた。
「今回の戦争、結局はどんな『バランス』で決着がついたのでせう?」
 鉄帝国軍人からすれば中々答えにくい意地悪な質問に五人は何とも渋い顔をする。
 これは全く――今日守勢を余儀なくされたイレギュラーズによる最も的確な反撃の一矢だったかも知れなかった。

※ネオフロンティア海洋王国とゼシュテル鉄帝国の間で講和交渉が行われるようです!

イレギュラーズへ送られたメール内容

お客様のキャラクターは第三次グレイス・ヌレ海戦におけるシナリオにて行方不明(鉄帝国軍の捕虜)となりました。
つきましてはお客様のキャラクターが捕虜にされた状態でどんな態度を取るか、どんな行動を取るかを記載した行動方針(プレイング)を200字以内でこのアドレスまで御返信ください。台詞や心情、こう言われたらこうする等、内容は自由で構いません。

現状の皆さんの状態は『捕虜として収容され、17名が一堂に会した状態』です。
武装は取り上げられており、怪我をしている人間が多数です。
収容先はアイゼン・シュテルンであり厳重に見張られています。
またこの艦は皇帝乗艦の為、非常に厳しい状態です。
捕虜として関わる可能性がある人物は以下です。

・皇帝ヴェルス
・提督ミハエロ
・『セイバーマギエル』エヴァンジェリーナ・エルセヴナ・エフシュコヴァ(p3n000124)
・レオンハルト・フォン・ヴァイセンブルク
・ビッツ・ビネガー(p3n000095)

こちらの締め切りは短くて恐縮ですが1/5一杯とします。
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