夢を見ていた。少女が夜を呼ぶ夢だ。
昼間の賑やかな大通りを、馬車と教会の鐘と焼いた小麦の香りを、その中を、黒衣の少女がまどろむように立ち止まる。
少女がなにごとか呟いたその時に、空は眠るように夜色へ塗り変わり、風は夢見るように静まり、人々はとっくりとしかし整然に眠りへとついていく。
町はまるで夢を見るように塗り変わっていった。
お菓子の家に、遠い銀河に、虹かかる空の庭に、海底のダンスホールに、虚無の白に、スクランブル交差点の雑踏に、羊の大移動に、あがるキノコ雲に、春風歌う大草原に、次々と、まるで元の姿を忘れるように変わっていく。
人々の姿は夢の中に塗りつぶされるように消え、空も家々も、なにもかもが消えていく。
少女はその光景の中で唯一変わらず、ただ虚空の一点だけを見つめていた。
いや。
少女だけじゃない。
少女は、『わたし』へ振り返った。
少女は、眠そうに笑い。
少女は、優しそうにまどろみ。
知らぬ間に後ろに立っていた少女が、『わたし』の両目を手で塞いだ。
「誰でも知っていて、誰も気づいていないもの、なあんだ」
『わたし』は気づいてしまった。
これは現実だ。夢なんかじゃない。
そしてもう一つ、気づいてしまった。
――現実なんて、もういらない。
――夢のような、夢のような、夢のような世界の中で遊べばいい。
――現実の肉体など、朽ち果ててしまえばいい。
※天義西部の町ムーンボギーが明けぬ夜の呪いに閉ざされました!
この不吉に現場は混乱。イレギュラーズには事態の調査と解呪が求められています!