クリスタルの輝きが深奥に至る度に濁りを得る。
それは流れを失った水であるかのように。
……川の水が腐らぬのは動きがあり、生きているからだ。
しかしどこにも往けぬのならば万物はやがて濁る。
如何なる煌めきも、如何なる光も。どれだけ素晴らしいものであろうと。
留まり続ければやがて腐るのだ。
ファルベライズ遺跡中枢部『アアルの野』の最深部に到達したイレギュラーズ達は、見た。
ホルスの子供達を作り出した――『博士』の痕跡を。
『死で罪を雪ぎ、永遠の余生を辿るべきなのだ。
もう一度を。君なら出来る。君ならば死者さえも愛せるだろう』
ソレが『博士』の文であると気付けたのは彼に関わりがあるアカデミアに出入りしていた存在――ニーナ(ニルヴァーナ・マハノフ)が同行していたからだ。中枢域の遺跡に書かれていた……混沌の言語であるソレは埃被っていたものの確かに読めて。
その下には更に『ファルベリヒトへ』という文字も。
……彼はファルベリヒトそのものに関わりがあったのだろうか?
しかし大精霊と称されたファルベリヒトは深い眠りに付いている――
『――ああ、私の眠りを妨げるのか』
筈だった。
最深部の調査を行っていたイレギュラーズ達の目の前に現れたのは金色の神秘を纏う存在。
その姿は――イレギュラーズへの協力体制を示したイヴに酷似している――
しかし違う。似てはいても細部は異なり、それになにより雰囲気が一切合切異なっていた。
それはイヴのものではない。イヴと同じかんばせの、イヴではない存在……
『多くが生まれた。多くが蘇った。ねぇニーナ、実験は成功だよ。ジナイーダも沢山生まれた』
魂の異なる『別人』だ。
イヴを思わせる精霊。その名をファルベリヒトと呼ばれた其れは禍々しい狂気を発している。
其れに感化されたように動き足した『ホルスの子供達』はけらけらと笑っている。
皆同じ顔、勿忘草の髪飾りを付けた幼い少女のかんばせをしながら。
笑っているのだ。
この世に。この世に再び生まれた事に。
息をするように感謝している。
ああ――『博士』『博士』『博士』――と。
死者を作りだそう。
君たちは死を乗り越えられないからこそ、然うして悲しみ続けるのだ。
分かるかい? ああ、私がジナイーダで実験をして君たちがそれ程悲しむとは思わなかった。
しかし、だ。
ジナイーダ、君も元の体で家に帰りたいだろう?
あの日が。友と過ごした日々が。家族が。愛が、暖かさが。健やかなる日々があったあの場所へ。
少し待っていなさい。
直ぐに、ファルベリヒトと共に、無数の願望器(アーティファクト)を使って君の願いを叶えよう。
ここには色宝という神秘の零れ石も溢れている。きっと必ず出来るから。
ああ――勘違いしないで欲しいのだが、私は。
死を冒涜しているわけではないさ。
死をも超越してみせるのが――錬金術師、だからね?
諦めねば必ず道は開けると、私はタータリクスにも教えたよ。
※<アアルの野>最深部に到達したイレギュラーズが『博士』の痕跡を発見しました!
※最深部の方で動きがあるようです……!