――境界。
果ての迷宮10層の最奥に存在していたその異空間は荘厳なる図書館として特異運命座標の目には映った。
『境界図書館』と、その名を呼ばれたその場所は無辜なる混沌と外の世界を結ぶ役割を担っている。
日々、『ライブノベル』と呼ばれる本を通して異世界に干渉する機能を有する図書館で異世界の案内人たる秘宝種の少女――無性ではあるがその姿は紛れもなく少女である――『ホライゾンライブラリ館長』クレカは「来た」とイレギュラーズの訪れを歓迎した。
多くを語らず、人形めいた美貌を持ったクレカの傍らには楽しげな双子の星、カストル・ジェミニとポルックス・ジェミニが微笑んでいる。双子は世界と世界、あわいの住民であり境界案内人(ホライゾンシーカー)と呼ばれる存在だ。
双子以外の案内人達も書架より新たなライブノベルを手にしているようだが……クレカの用事はライブノベルについてではない。
「こっち」
手招きを一つ。
歩いて行くクレカの背を見送って双子はイレギュラーズに行ってらっしゃいと告げる。
「これ」
ぴた、と図書館の最奥で立ち止まったクレカが指さしたのは一つの機械であった。
レトロな雰囲気をさせる其れは映写機と呼ばれる代物だ。
どうしてこの図書館に――とクレカを見遣れば彼女はどこかぎこちない――そして、寂しげな――顔をした。
「これは時代遡行装置アーカーシャ。
境界図書館で新しく発見された機械。これで過去を追体験できる」
――過去を?
「皆が冒険してきたすべて。幻想のサーカスも、天義の月光人形も。そういう過去も」
クレカは言う。
どうしたものか他の案内人にはその使い方は分からなかったがクレカには分かったのだという。
此れまでの『境界での活動』の影響か新たな可能性が芽生えるようにその装置が発見されたのかもしれないとクレカは考えた。
「『過去』を見てみよう」
クレカはそう言った。
過去は『今は』あくまで見るだけなのだそうだ。まだ、発見されたばかり――クレカ自身も何となく分かっていた使い方で過去を追体験する方法を編み出しただけだそうだ。
「……私も、外の戦いを見てみたいから」
これまでの冒険をひとつ、振り返ってみよう。
……そういえば、あの噂される『大量召喚』の日――ローレットの本格始動の日から、もう3年も経ったのだと、アーカーシャに映し出された時刻表示でぼんやりとした実感が沸き立ったのだった。
※想起クエスト時代遡行装置アーカーシャ が発生しました。