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Kirschbaum Cocktail

 寒く厳しい冬を乗り越えて。
 暖かく柔らかな春がやってくる。
 安寧に抱かれた市井の人々にも。激闘に身を捧げるイレギュラーズにも。誰にも彼にも平等にやってくる。

 イレギュラーズは休む間もなく、大冒険のさなかにあった。
 海洋王国大号令に始まる絶望の青を踏破せんとする大航海は、重大な局面を迎えようとしている。
 廃滅の呪いに蝕まれながらも、舞台は未知の島アクエリアへと移ろっているのだ。
 その前は。鉄帝国が帝都へ迫った機動城塞ギアバジリカの悲劇が幕を下ろしたばかり。
 一人の聖女が特異運命座標に救われ、その尊い命と引き換えに新たな時代を切り開いた。
 そして深緑へ訪れる妖精と、それを害する魔物の事件が徐々に広がりを見せており――

 そんな中で市井の人々から聞かれるのは、ほっと一息つけるような話題であった。
 どうやら街はとても珍しい『桜リキュール』の話で持ちきりらしい。
 関心が集まれば必然と情報はまとまってくるはずなのだが、どうにもとっ散らかったそれらにむしろ関心が強くなり──延々とループするのである。

 ある者は言った。
「ラサで見かけたんだ。商人がそれはもう得意げに『これは世にも珍しい、桜のリキュールでございます』って」

 またある者は言った。
「練達が開発した新商品だよ。不在証明? に対抗したいとか何とか言ってたな」

 さらにある者は言った。
「これ? そこの川を流れてきたのさ。ドンブラコ、ドンブラコってね!」

 一体どこからやってきたのか。定かでないそれは、けれど噂が広がると同時に流通し始めた。
「で、これがそのリキュールってやつなんですけれど」
「ローズ・ドラジェね」
「普通の桜色なのです」
「匂いも……酒のようだね」
 ローレットに集まった情報屋たちは件のリキュールをしげしげと観察した。ちなみにブラウ(p3n000090)たち未成年ズが持っているものはノンアルコールである。
 突然、しかも出所もよくわからない状態で出回り始めたリキュール。魔種やそれに連なる者を警戒するローレットとしては何か起こる前に押さえておきたいところだ。
 誰かが大儲けするために流した噂、などであれば特に問題ないのだが──。
「うん、これは普通の酒だよ」
「えっもう飲んだのです!?」
 『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)がぎょっと『黒猫の』ショウ(p3n000005)を見ると彼は舐めただけだと肩を竦める。『色彩の魔女』プルー・ビビットカラー(p3n000004)も「パウダー・ピンクな味ね」と呟いているし。
「甘い香りですね……あ、味もだ」
 ブラウもノンアルコールの匂いを嗅ぎ、ちびりと舐めて頷く。
 見て、嗅いで、舐めた結果がただの酒。人々に異変が出ているわけでもない。ノンアルリキュールも同様だ。
「……ただのお酒、で良さそうでしょうか?」
「ぴよ、良いと思います!」
「スカーレットではなさそうよ」
 まあいいんじゃないだろうか、と頷く4名。彼らは他の情報屋にもその旨を伝え、それぞれの持つ情報を開示すべく動き出したのだった。

 春のイベントシナリオが公開されました。


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