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ほんとにほんとに妖精なの!

 アルティオ=エルムのアンテローゼ大聖堂に珍しい客人が訪れたのは、その日の夕刻。
 ちょうど『灰薔薇の司教』フランツェル・ロア・ヘクセンハウス(p3n000115)の執務に区切りがついた頃合いだった。お茶でも煎れようかと退室しようとした、まさにその瞬間――

「じゃじゃーん! こんにちはー!」

 礼拝堂に元気いっぱいな挨拶が響き渡り、フランツェルは振り返る。
 声の方に視線をやれば『迷宮森林警備隊長』ルドラ・ヘス(p3n000085)が真面目くさった顔で立っており、フランツェルはつい二度見などしてしまった。
「ああ、すまない。こちらのストレリチアがどうしてもこの中が見たいと言ってな」
「ストレリチアなの!」
 もちろんそれがルドラの声でないことは分かっていたけれど。
 なるほど。ルドラの肩にちょこんと腰掛けた少女が噂の妖精らしい。
「喉がかわいたの!」
「こんにちは、ストレリチアさん。フランツェルよ。そうね……もう少し落ち着ける場所をご用意するわ」

 フランツェルとルドラ、それから肩のストレリチア(p3n000129)は、挨拶もそこそこに歩き出す。
 向かう先は給湯所だ。単にフランツェルが思いつく限り『比較的手近で』『他に誰も居らず』『お茶が飲める』と、三拍子揃った場所がそこだったというだけで他意はない。
「狭いところでごめんなさいね」
「いやこちらこそ、突然押しかけた身だ」
「すっごい広いの!」
 小さな身体ではこの場所とて大層広かろうものか。

 フランツェルはお茶を煎れながら、元気いっぱいに話し続けるストレリチアに相槌を打っていた。
 噂の通り、ストレリチアは妖精郷アルヴィオンから来たらしい。
 古い伝承に記された地名で、彼女はそこから妖精郷の門(アーカンシェル)を通じてこちらにやってきたと言うのだ。俄に信じがたい話である。
 だがつい先日、門に悪さする魔物をローレットのイレギュラーズに退治してもらうという一件があり、イレギュラーズが彼女を実際に『向こう側』へ送り届けた以上、信じない訳にもいかない。
 門に悪さする魔物といえば、イレギュラーズからつい先程ブルーベルと名乗る少女が魔物を操っていたという報告が上がったばかりだった。
 ストレリチアが言うには、妖精達は――ルドラ等が思い描くよりずっと――頻繁に、こちら側へ来ているようだ。なにやら遊びや交流に、霊薬や衣類等の材料を調達する為らしい。
 そしてストレリチアは妖精達が『門を狙う魔物』の出現に困っていると口にした。同様の事件が頻発しはじめたらしい。
「ほんとのほんとは、これが一番大事なお願いなの!」
 ははあ。
 ルドラ等はこのところ各地の魔物が強くなっている感触を得ており、彼女の率いる深緑森林警備隊も手を焼いている所であった。
「ぷはー! このお茶、優勝できるの!」
 ストレリチアはと言えば、この態度である。あまり切迫した様子は感じられないが、実際のところは本当に困っているのだろう。
「やっぱりローレットに依頼するのが良いんじゃないかしら」
「同じ意見で安心した。ローレットのイレギュラーズならば信頼出来る」
 結論は一つしかなかった。

「さっきのところ、もっと見たいの!」
「それじゃあ、案内するわね」
 フランツェルは執務室に書類の山が残っていることを思い出しながら、この小さな客人のために明るい笑顔で応じたのだった。



 深緑に何か動きがあったようです。


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