#author("2020-01-22T23:22:00+09:00","","")
*TOPログ [#q2e553e7]
#author("2020-10-31T16:55:46+09:00","","")

**<『絶望の青』へ!> [#d9097876]
「ソルベよ、して状況はどうなっておる?」
「王国の造船工廠は朝から晩までフル回転ですよ。
 先の勝利で元から士気が高い所に、賃金を倍積んでやりましたからね。
 職人も軍人も本格的な出征を一日でも早くしようと嬉々として力を尽くしていますよ」
「うむ。それでこそ、じゃ。その分だと無駄な戦闘で傷んだ船のリカバリーも早そうじゃな」
 貴族派筆頭ソルベの得意気な報告に海洋王国女王イザベラは小さく鼻を鳴らした。
 首都リッツパークに点在する造船工廠は海洋王国の軍民問わぬ誇りである。
 混沌一の造船技術と航海技術を誇る海の民は二十二年の雌伏の時を越え、今日に到っている。
 近海掃討から始まり、不吉な予知、鉄帝国の横槍、併せての海賊連合の反攻……
 紆余曲折こそかなり積み重なったが、かくて海洋王国は悲願とも言える外洋征服の準備を整えつつあった。
「『絶望の青』。きっと一筋縄ではいかないのでしょうね……」
 ソルベの妹であるカヌレが可憐な表情を小さな憂いに染めていた。
「大丈夫だ。今度はきっと上手くやる――いや、『やらなければならない』」
「お兄様、私何だか少し怖いのです。
 フワフワして高揚して――楽しみには違いないけれど、同時に……」
 肩に手を置いた兄――ソルベの顔をカヌレは上目遣いに見つめていた。
 海洋王国にとって絶望の青は繰り返しその願いを阻んできた謂わば『宿敵』である。
 青い外洋の壁は彼等の挑戦心と反骨心を嘲り笑うかのように幾多の船を、人を深い水底に沈めてきた。
 帰らなかった者だらけだ。
 精魂込めて作った船も、磨きに磨いた技術も全ては無駄だった。無為だった。
 幾度と無く心を折られ、誰もが不可能だと絶望し、しかし海洋王国は何度でも立ち上がってきた。
 そして、何度へし折られようともそれを諦めぬと誓ってさえいる。無念を抱えた先人の為にも、この先を生きる子供達の為にも。前の大号令が発布された時、カヌレは産まれていなかったが、有力貴族の嫡男として子供心にそれを思い知るソルベは不安気な妹を励ますように続けた。
「大丈夫。これまでに無い位に準備は整えた。それに今回はイレギュラーズも味方に居る」
「確かに彼等の存在は特別です。あんなに素敵な方々が居るなんて!
 海洋王国の歴史にもあの野蛮人共(ゼシュテル)をあんなにやっつけた記録は中々ありませんものね!」
 珍しくしおらしげなカヌレに力強く応えるソルベの言葉に笑顔のバニーユ男爵夫人が追従した。
 ソルベの派閥に属する夫人が領袖の言葉を持ち上げるのは自然な話だが、声色には些かの揶揄が混じる。
 それは彼女の性格によるものか、それとも――
「――ともあれ、時を置けばまたどんな邪魔が入るとも知れぬ。
 準備が万端整うというのであらば、後は果断に決断するのみ、じゃ。
 我等は可及的速やかに『絶望の青』を攻略し、その先へ進まねばならぬ。
 大号令の名の下に、海洋王国の威信にかけてな!」
「御意、にございますわぁ」
 イザベラの腹心でもあるトルタ・デ・アセイテ――『アセイテのアプサラス』の異名を取る海賊提督である――が小さく微笑んで主人の宣言に頷いた。
「トルタ、腹案はあるのであろうな?」
「勿論ですわ、陛下。『絶望の青』は近海では存在し得ない摩訶不思議な現象や気象が頻発する危険地帯。
 大船団を組んでの一点突破が失敗に終わるのは過去の『大号令』で知れております。
 あれを一足飛びに越えるのはもう、厭になる位に不可能、という事ですわぁ。
 そこで今回は目先を変えて――小船団を多く派遣します。
『絶望の青』における安全地帯を少しずつ広げていく……という寸法ですわぁ。
 小船団の威力偵察航海で可能な限り危険を排除し、海域内で橋頭堡となりそうな場所を探索します。
 後半の海への足掛かりですわね。大船団が補給停泊出来そうな安全な陸地がいい。
 安全でなければ一戦交えてでも安全にするまで、ですけれど。
 兎に角、そういった場所を何とか見つけ、王国と補給線を結びます。
 後半の海に何があるかは知れませんが――兵站が確立しておりますれば、勝算も上がりましょう?
 ソルベ卿以下商人ギルドにも物流という意味で今回全面協力をお願いしておりますわぁ」
「是非も無い。今回ばかりは提督の話に異存はありませんね。
『絶望の青』での過去の失敗を可能な限り、洗った結果です。
『意志を持っているかのような嵐』や『拳大の雹』に沈められた船あり。
 恐るべき怪物共――狂王種に食い散らかされた船人あり。
 幽霊船なんて与太話さえ、あの場所に限れば本当になる。
 あの忌まわしい原因不明の病も僕達を苦しめた要因でした。
 船団にはたっぷりの水と考えられる限りの治療薬、後はライムを――
 ――ええ、今度ばかりは絶対に失敗は許されませんからね」
 二人の説明にイザベラは鷹揚に頷いた。
「目にモノ見せてやれ」
 海洋王国を率いる女王として。
 先代にも先々代にも果たせなかった願いを成就する事は彼女にとっての大矜持である。
「『絶望の青』だか何だか知らぬが、たかが水溜まり如きが妾を阻めると思うてか!」
 あんまりにもあんまりな台詞だったが、一同は華やかに笑っていた。
 戦いの時に、始まりを臨む今に。猛々しい彼女の言葉は号砲に相応しく、却って頼もしくもあったから。

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''※海洋王国の『外洋征服』が開始されました! ローレットにも依頼が出ています!''
''※絶望の青の限定クエスト『死腕のクリティアス』が発生しています。''


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