#author("2020-03-10T22:28:26+09:00","","") *TOPログ [#v3e945a6] #author("2020-07-01T12:03:46+09:00","","") **<CHIMERA INCIDENT> [#s98ff8e4] 鉄帝での騒ぎが収まり、海洋が大きな作戦に動く中、一方の深緑でも少しずつ事件の風が吹き始めていた。 木々の間を吹き抜ける花の香り。ここはローレットファルカウ支部。 深緑の民がローレットの受け入れをはじめ、依頼を出すようになった頃から使われているファルカウ内部に建設されたウッドハウスである。 「ふう……だいぶてこずったけど今日も依頼完了、と」 腕に包帯を巻いたゼファー(p3p007625)が扉をあけ、ウェルカムウッドベルをころころと鳴らした。 依頼書の束をまえにぐりぐり書類仕事をしていた出亀炉 スイカ(p3n000098)がカウンターテーブルから顔を上げた。 「へいらっしぇい! 奥さんなんにしゃっしょー!」 「奥さんじゃないしお店じゃないでしょ。もう」 「えっへへー。ほんでどした。アタシが恋しくなったか!」 「ちがくて」 ゼファーは斜めがけにしていた鞄から折りたたんだ依頼書を取り出すと、テーブルにトンと爪を立てて置いた。 指をすべらせ、スイカのもとへと押し出す。 「今日も依頼が完了したから、その報告」 「まいどありー!」 報酬だぜぃ! とか言いながらスイカがおいもでつくったスタンプと葉っぱ袋を取り出してくる。 が、依頼書にスタンプを叩きつけようとしたところでぴたりと止まった。 「そういやその腕どした」 「ん」 ゼファーは片眉をわずかにあげて、自分の腕の包帯を見た。 「今日は妖精さんを妖精郷の門まで送り届ける仕事だったんだけど 門の直前でへんなモンスターに襲われちゃってね」 ――『妖精教の門』。それは、深緑の一部に伝わる『妖精伝承』(フェアリーテイル)の一つであった。 深緑の迷宮森林にはハーモニアの集落が点在しており、そうした村の幾つかに古くからある物語。 小さな隣人、妖精たちが時折――妖精郷の門(アーカンシェル)から現れる、と。 妖精は薬花を摘んだり、遊んでいたり、人に可愛らしい悪戯をしたりするらしい。 ただそれはあくまで伝承の一つであり、あまり信じられてはいなかった面もあったのだが……つい先日。ストレリチアという妖精が深緑警備隊に保護された経緯から、事態と認識は少しずつ変わり始めていた。 暫く前、『ザントマン事件』があった事もこの潮目を後押ししている。 御伽噺の類はそれなりに『あて』になる事もあって――恐らく『妖精郷の門』は実在するのだと。 そして先日。回想。 ゼファーの脳裏に浮かぶは相対した獅子の頭、山羊の角、蝙蝠の翼、蛇頭の尾、熊の爪――複数の獣の特徴が混合したようなモンスターが道中に現れ、イレギュラーズへと襲いかかってきたのだ。 幸い仲間達と力を合わせて戦ったことでモンスターは逃亡。依頼は達成することができた。 どうやら後の調べではこのモンスターは門の破壊を試みていたらしく、到着が遅れたら妖精が帰るための門が一つ失われるハメになっていただろう……とも。 「あんなモンスターが出るとは聞いてなかったけど」 「だろーな。アタシらも知らなかったし」 スイカはそう言いながら、別の依頼書をぱらぱらとめくって並べ始めた。 「けどそんなカンジの依頼、最近増えてね? それも妖精の門がらみで」 「…………」 ゼファーは並ぶ依頼書を眺め、そしてずきりと傷む腕をおさえた。 「変ね、いつもならもっとはやく血が止まるはずなんだけど」 胸騒ぎ、というべきか。 嫌な予感がするのだ。 あのモンスターが戦いの最中で逃げ出したのは、ちょうどゼファーの腕に噛みついて血を舐めた直後であった。 「もしかして狙いは、私たちの血液……とか?」 「まっさかー」 スイカはからからと笑うが、ゼファーには笑い飛ばせる問題ではないように思えた。 まだ、この世界はゆれている。 不穏な風が、森を吹き抜けていく。 ''※――深緑でイレギュラーズのなにかを採取していく事件が発生しているようです''