#author("2019-08-21T17:33:46+09:00","","") *TOPログ [#jade1764] #author("2020-10-31T16:09:18+09:00","","") **26 Years Ago... [#la02132a] 頬を撫でる初夏の風。 青いキャンバスにもくもくと入道雲。 空中神殿の一幕を見下ろしていたのは、晴れ過ぎる程に澄み渡った空だけだった筈だ。 「オマエは何時もそうだよなー」 弾む足取りで朽ちかけた石畳の上を歩く。 「そう、とは何でごぜーますか」 「面白くもなさそうでさ。でも、暇でもなさそうでさ。 暇だろ、こんな所。面白い事もねーし、俺しかいねーし」 俺の言葉に小首を傾げた女は「……考えた事も無かったでごぜーますよ」何て言う。 混沌世界にまことしやかに語られる『御伽噺』が唯の冗談でない事は知っていた。 地上(した)には稀人――異世界から呼びつけられたという『特異運命座標(イレギュラーズ)』が確かに居たからだ。練達なんて国がある以上そこは疑う余地も無い。この世界には御伽噺が実在し、空には神託の少女(みずさきあんないにん)が居る――それは誰もの、俺を含めた共通認識だった。 ……でも。 「どんな聖女様が出て来るかと思ったらよ。変な女、オマエみたいなのが一人で居るんだもん」 物語に聞いた『それ』がイメージと同じだったとはとても言えない。 女は酷く無表情で、酷く無感動で、無味乾燥としていて、それから――とても綺麗だった。 「私は変でごぜーます?」 「ああ、変だね。断然変だ! だって、こんな所に一人で居るなんておかしいだろ! 笑わねーし。意地悪しても泣かねーし。オマエって本当に変な女!」 吹き付けた風になびく髪を抑え、女は俺の言葉を静かに受け止めていた。 「……変って言えば」 意趣返しですらないのだろう。女は何も変わらない表情で俺を指差した。 「――こそ、変でごぜーますよ。こんなの、初めてで―― 第一、――こそ暇でごぜーます。『つまらない所』にしょっちゅう来るでごぜーますからね」 ……そんな切返しに酷く焦った事を覚えている。 酷く胡乱に、朧気に。朽ちてノイズ掛かった映写機のように、そんなシーンを覚えている。 「俺は特別だからな。そういう事もあるんだよ!」 「……何だかそっちばっかりずるい気がするでごぜーます」 特異運命座標はこの世界に必要とされ、愛された存在だ。やがて滅びに向かうという混沌の結末を唯一変え得る――空中神殿はそんな選ばれし者に行く末を与える特別な場所だ。 唯一つの手違い、即ち女の言ったこの俺を除いては。 ……そう、俺は特異運命座標足り得ない。 俺は特別じゃない。俺は親を亡くした唯のクソガキでしかなかった。 「俺は頼んでねーし。オマエ達の手違い(バグ)だろ、つまり俺は悪くない」 この時の俺はそれを何とも思わなかったけれど――俺は確かにバグだった。バグだからこの場所に到れても、バグだから――何十年経ったって絶対に俺に運命(パンドラ)は微笑まないのだ。 どれだけ願っても間違い(バグ)。どれだけ呪っても――それは手違い(バグ)。 「だから、オマエは大人しくいじめられてろ!」 「……………」 「不満そうじゃん」 「……何だかすっごく理不尽でごぜーますよ?」 「へへへ、そうやって別の顔もしろよな、少しはさ!」 能面のように動かない少女の美貌が、少女の眉が僅かに顰められたのが何より嬉しかった。 そんなささやかが見たくて。良く見なければ見落としてしまいそうな変化が見たくて―― ――我ながら馬鹿だ。繰り返した詮無いやり取りは一回二回の話じゃなかった筈だ。 「――は、本当に変な『子』でごぜーますね」 俺は「オマエほどじゃねーよ」と憎まれ口を叩いて、陽だまりの中で伸びをした。 遠い夏の日、俺は確かにあの女に出会った。 何者でもなかった俺は――そんな些細な出来事で余りに鮮やかな特別を知った。 「そろそろ散歩も飽きてきたからな。今日はどうするか。 なあ、どうしたい――今日は何しよっか、ざんげ!」 ……今日は? 馬鹿言え。何も出来ないまま――二十六年も経っちまったよ。 あの日、手を伸ばせば届きそうだった空と同じように、世界は確かに何処までも広がっていた筈だ。 なのに、あの時オマエが何て答えたかも――俺は、もう明瞭に思い出す事も出来ないんだ。 ※ネオフロンティアサマーフェスティバル2019開催中です! 『超』限定クエスト&限定背景、闇市をお見逃しなく! 闇市『輝く海の日!』は今の所レリックの出現率が上昇しています! 夏ですから! 水着・浴衣コンテストの投票は7/25の0時まで! じゃんじゃかハートクリック! PPP二周年は『7/28』です。ファンアート等を受け付けています。 投稿方法は簡単。Twitterで『#PPP二周年記念』のタグをつけて投稿すればOK! 是非ご協力下さい!