#author("2020-01-20T18:41:52+09:00","","")
*TOPログ [#j5964e58]
#author("2020-10-31T17:20:35+09:00","","")

**White Sleigh [#za43f376]
 鉄帝国首都スチールグラード。
 繁華街の酒場では、賑やかな宴が繰り広げられていた。
 大テーブルを占拠しているのは十名程の屈強そうな軍人である。
 いずれも派手な軍装を纏っている。鉄帝国軽騎兵の一部隊であろう。
 船上でいつ命を落とすとも知れぬ覚悟を抱き、平時は狂乱に明け暮れるのが常という連中だ。

 そんな酒場で、大きな帽子が左右に揺れた。
 かぶっているのは小さな少女だ。
 片手に銅の杯を、もう片手を腰に当てながらぴょこぴょこと歩み出たのである。

「飲んでる?」
「ダース!」
「ほんとに?」
「ダーダダース!」
「飲み足りてる?」
「……ニェット!」

 少女――[[『セイバーマギエル』エヴァンジェリーナ・エルセヴナ・エフシュコヴァ(p3n000124)>https://rev1.reversion.jp/character/detail/p3n000124]]は満足げに頷くと、卓に銅杯の尻を叩き付けた。
「注文! 追加よ!」
「如何なさいましょう」
 少女は懐から取り出した札束を、紙袋ごと店員の手へ叩き付けるように乗せてやる。
「いいっ? もっとじゃんじゃん飲みなさい!?」
「ィエースチ!」
「ハラショー!!」」
「さっすが隊長だぜ!!!」
 エヴァンジェリーナはご満悦といった表情で、酒場の奥にある小さな卓へと向かっていった。

「それで、今日は何のご用?」
 ぶどうジュースを一舐めし、エヴァンジェリーナは椅子に腰掛けようとする。
 腰をぶつけ、グラスを置く。それから座面に手をついてようやくぴょこんと座り込んだ。
 ボリスラフは壁掛けの時計見てみない振りをしてやっている。
「何のご用って聞いているじゃない」
「これは失礼しました。それとこれからお話することは、くれぐれもご内密にお願いします」
 些か胡乱な言葉を耳にしたエヴァンジェリーナは、自身より階級が高い筈の[[ボリスラフ>https://rev1.reversion.jp/illust/illust/15698]]をジト目で睨む。
 個人や組織の力関係云々等と云うよりは、単に物腰柔らかなボリスラフと跳ねっ返りのエヴァンジェリーナという性格から来るものであろう。
「めんどくさい話じゃないでしょうね」
「残念ながら、面倒くさい話です」

 海洋王国では二十余年ぶりの大号令が発布されたという話だが、鉄帝国を専ら騒がせているのはとある計画である。
 スチールグラードのスラムでは、ニュータウンの開発計画が立ち上がっているらしい。
 軍主導の計画だが、住人にとっても雇用を生み出し、貧困から脱却するチャンスとなる。
 それにスラムを根城とする悪人が問題視されているのも事実だ。
 またこの国で信仰を集め、特にスラムで強く信仰されているクラースナヤ・ズヴェズダーと呼ばれる教派もまた、計画そのものには歓迎の意向を示している。
 しかし一部では問題も発生していた。
 強引な立ち退きを迫るといった問題が多発していると云うのだ。
 だが問題は、どうも根が深いらしい。
 開発計画に熱を上げる[[将校ショッケン・ハイドリヒの蠢動>https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/2370]]。
 突如巻き起こった[[ギャングの抗争>https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/2405]]。
 軍の[[ヴァイセンブルグは手配者の男を追って>https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/2411]]おり。
 それからスラムでは[[不穏な動き>https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/2406]]が起りつつあるとも――
 スラムの住人同士、軍内部の派閥、それからクラースナヤ・ズヴェズダーの派閥――様々な思惑が複雑に絡み合っているようだ。
 おそらく国家上層部は状況を前々から事態を注視しており、これから手を入れる決断をしたのだろう。

「それで依頼のお話なのですが」
「その話、明日にしない?」
「そういう訳には行かないのです」
 ボリスラフは言葉を続ける。
「あくまで闘士による私闘として、[[イレギュラーズとの共闘>https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/2404]]を――」
「えっ……?」
「えっ……」
「えっ??????」
「えっ」
「乗ったわ!」

 即断即決したエヴァンジェリーナは輝かんばかりに瞳を潤ませ、満面の笑みで飛び跳ねた。
 ボリスラフは――年端も行かぬ少女の武威に頼らねばならぬ事へ、心の内で聖句を紡いだ。

 ''※鉄帝国帝都スチールグラードのスラムで異変が起っています。''
 ''※海洋王国が二十二年ぶりの大号令に沸き返っています。''


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