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ギア・バシリカへの抗い

 鉄帝国。その大地にて一つの巨大な影が動いていた。
 それは歯車大聖堂(ギア・バシリカ)と名付けられし古代兵器である。
 村々を略奪し、己が内に取り込むその様は正に怪物。グレイス・ヌレ海戦による出兵で主力を割いていた鉄帝軍は、首都の付近に突然と湧いて出たその存在に対して――部隊の動員が些か遅れていた。
 これが例えば国境付近の出来事であれば守護神たるザーバ・ザンザが即座に対処した事だろう。かの人物は軍事の傑物であり、幻想・鉄帝の前線はいつでも軍事行動が出来る様に軍勢が常備されている。更に戦の緊張が常にありし地であれば、突発なる事態にも神速の対応を見せた事だろう。
 しかし歯車大聖堂は鉄帝の内地に出現した。防衛線の、内側に。
 これに対処するならば付近の部隊によって――だが。先述の通り海戦の影響で部隊は平時より少なく。そして何より、出現した歯車大聖堂は文字通りに『巨大』であり半端な数や連携ではとても物理的に止めれぬ圧を有していた。
 苦戦免れぬ。ともあらば首都すら危機に晒されるかもしれないこの事態に対して――

「レディィ――ス・アンドッ・ジェントルメェーン!!
 さぁ鉄帝に住まう紳士淑女の皆様方!! 今日も今日とて如何お過ごしかァ!!」

 鉄帝の民はただ座して見ていた訳ではなかった。
 歯車大聖堂の進軍先。ある街にてマイク携え、声を張り上げるはジェッディンという男。
「見るがいい、かの巨大兵器を! あれぞスラム街『モリブデン』の地下に眠っていた古代兵器!! いつ、誰が作ったのか? そんな事は分からないが――『コレ』は分かるだろう!! あれは真っすぐ此処へ向かってきていると!!」
 大仰にジェッディンは歯車大聖堂を指差し、民衆へと語り掛ける。
 今はまだ遠くに見えている、が。確かにアレはこちらへと迫ってきている。目の良い者が見れば、なにやら先行して迫ってきている――歯車大聖堂から排出された『兵器群』の姿も捉えられるだろう。
 アレは歯車大聖堂の子の様な存在。親に食料を献上し、或いは敵を討つ『物』ら。
 されば慌てふためく民衆達もいる。
 避難は――軍はどうしたんだ――様々な感情が吐露されていく中。
「さぁ、どうする諸君?」
 それでも、何の焦りも無くジェッディンの軽快な語りは続く。
「かの地では既にイレギュラーズの援軍を得た者達が戦っているぞ?
 そう! イレギュラーズ!! あの! ローレットの! イレギュラーズ達、だッ!!」
 言うは歯車大聖堂の接近に混乱している者達へ、ではない。
 かの兵器の進軍を目の当たりにしても――臆しておらぬ『鉄帝人』達へ。
「彼らは英雄だが、彼らにだけ任せてよいのか!!? この国は一体どこの、誰の国だ!!?
 誰が住まう、誰の為の土地だ!!? ――さぁ、今こそ! 奮い立つ時ではないか!!」
 鉄帝国は厳しい気候に晒されている国家。
 そして『武力を愛好する』者達で多くが溢れている闘争の国。
 舐めるなよ歯車大聖堂。タダで奪わせてなどやるものか。

 進軍してくる歯車兵器達。強靭なる牙、駆動音を響かせて疾走するその姿。

 ――ぶん殴りやすそうな身体だと、誰かが呟いて。
「宜しい!! ならばこの戦い、私が見守ろう!!
 何。後ろの家族が心配ならばそれは私に任せたまえ――場外での乱闘なんぞは許さんよ!!」
 闘志漲る腕自慢達が街を護るべく前へ出て。ならばとジェッディンのテンションも上がり。
 彼は鉄帝の各地にどこからともなく出現する男だ。
 勝負や賭け事の気配を感じ取り、レフェリーや解説を誰に頼まれずとも務める元ラド・バウの闘士。試合や競技には無関係な人を巻き込まず守る紳士でもあり、そしてこれもまた……彼の感じ取った決闘の一つたれば。
「さぁさぁ罠も小細工も何も不要!!
 ここに在るは魂のぶつかり合いであれば――今こそここに宣言しよう!!」
 腕を上げて、力を籠め。
 振り下ろすと共に――どこまでも響く掛け声を一つ。

「ではいざ尋常に――ファイッ!!」

 戦いのゴングが、鳴り響くのだ。

 *鉄帝に出現した歯車大聖堂への抵抗の動きが各地で発生している様です!!


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