きゃあきゃあわあわあ。
きゃあきゃあわあわあ。
何時も何時も煩い。
『上』は馬鹿げた位に単純に、馬鹿馬鹿しい位に幼気に。
未来に福音があると信じている。
今と違う未来が、今日と違う自分が、きっと良いものだと――当たり前のように確信している。
「……ねぇ、信じられる?」
胡乱な問いかけは暗い海に、黒い水に揺らめく『二人』に向けられていた。
水底のアルバニアとは異なり、沸き立つ表の世界に居る二人に。
その興奮を享受しているかのようにも見える二人に……だ。
冠位七罪――その『嫉妬』を司る彼は世界を悪罵せし『煉獄編第三冠』を示す存在(もの)である。
この混沌世界を牛耳る七罪の一角を為す彼は平素の朗らかな表情を真深い湿度に染めていた。
「信じられないわよねぇ。他ならぬアンタ達だもの。
『陽の光の差す世界で、どうしたって望みの叶わないアンタ達だもの』。
愚問よ、愚問。分かってる。答えなんて聞かないわ。
もし分かる、信じられるなんて言われたら――今からアタシがアンタ達を殺しちゃうから」
画面の向こうの二人の面立ちが自身の望んだ『暗いもの』であった事にアルバニアは一先ず安堵する。
安堵して、好感して、酷く後ろ向きで歪な笑みを漏らしていた。
海洋王国大号令なんて――絶対に上手くいく筈がない。
確かに妹(ベアトリーチェ)を破った特異運命座標が手を貸すならば話はこれまでとは違うかも知れない。
けれど、これまでは自分が手を下す必要もなかった。
だが、彼等の存在を加味するならば今度は自分が動く。
特異運命座標(きせき)と冠位(はめつ)が揃い踏むなら……
……そうだ、元よりここは大海(ぜつぼう)でしかないではないか。
「分かってるわよね。ええ、そう。『今』はいい。
高らかに準備を進めさせなさいな。遥かなる青を目指させなさい。
そこは藻屑も残さない海だから。アタシ達の庭で――本当の絶望を見せてあげましょ。
うふふ、楽しみって言えば楽しみよ。夢見のお嬢ちゃんの予感は怖気なのでしょ?
そんなもの、本物の前ではまるで冗談に違いないのにね!」
暗い興奮を隠さないアルバニアからは陰鬱な魔性が漂っていた。
兄弟の前では、イノリの前では余り表に出ない彼の本質、それは嫉妬の冠位の証明だ。
きゃあきゃあわあわあ。
きゃあきゃあわあわあ。
何時も何時も煩い。
『上』は馬鹿げた位に単純に、馬鹿馬鹿しい位に幼気に。
未来に福音があると信じている。
今と違う未来が、今日と違う自分が、きっと良いものだと――当たり前のように確信している。
そんな事は無いのに。間違っているのに。
『現状』を変えようなんて烏滸がましいのに。
何時までも一緒でいいじゃない。
差をつけようなんて馬鹿げてる。ぬるま湯でいいじゃない。
そうしたら、アンタ達だってちょっとは――そうちょっと位は見逃してやれた。
でもね、これは間違いよ。これはアタシの琴線に触れる。
アタシの望みはきっとずっと叶わない。
何年も、何百年も、何千年も。そう、これは停滞した澱だわ。きっと檻に違いなかった。
だから、だからね。自分を置いて先に進もうなんてそんなの絶対に――
――妬ましい、妬ましくて仕方ない。許さない、絶対に。そんな事は許さない。
※何だか少しぞっとするような……嫌な予感がしました……