おのれ――おのれおのれおのれおのれおのれッ!!
ラサの古参商人、オラクル・ベルベーグルスは憤慨していた。
先の戦いで右腕を文字通り失い、肩を中心に激痛が走る。それが同時に怒りを誘発させるのだ。
あらゆる点で有利な筈だった。自らの勝利条件はあまりにも単純であった。
『深緑とラサの同盟』をご破算にし、深緑を再び世界から孤立させるだけ。
ラサの馬鹿共の多くを人身売買という黄金で目を眩ませ。
深緑への集団的攻撃さえ起こさせればそれで良かった。成否はどうでもよいのだ。
『そうすれば』あの閉鎖主義共は再び鎖国の機運が高めよう!
外界の助けが入らぬ様にした後は、後はカロン様が――カロン様カロン様カロン様がああ!
「づぉおおお……!! お、おのれこのままで済ますかぁ……!!」
だが全ての目論見は崩れた。配下や派閥の大部分を失い、商品の幻想種を奪われ。
自身も深手を負わされ、混乱の最中に這いずる様になんとか逃げた。
無様。無様無様極まる。が、だからこそこのままでは終われない、引き下がれない。
ディルクではなく自らに従う意思を見せた商人や傭兵達も最早行く所もあるまい、ならば!
ハウザーを気に入らぬ『黒豹』のパンターめは己に同調するだろう!
かの傭兵団『Dunkel』は中々の戦力だ。ダジーの臆病者は私を裏切ったようだが!
どちらに付くかで紛糾もしているのか……
ブルーめの奴もあの、世を上手く渡る手腕には期待していたのだが……!
誰も彼も一度の敗北と影響で統制が乱れおって……! 楽園の東側の連中も押し寄せてきているとは……!
ああ真にイラつかせてくれる。なんだ。一体どこで私はミスをしたというのだ!
魔種としての闘気が膨らんで往く。不快な状況だが、幸いにしてカノンのいる先は分かっている。
己が制御していた『グリムルート』の支配は強制的に奪われたが――元々は己の魔力で操っていた残滓からか、現在のグリムルートが集合している方向を辛うじて感知出来るのだ。
逃がさない。砂を巻き上げ己に纏わせ、魔力を集約させてオラクルは全力をその身に纏えば。
「カノン……カノンと言っていたなぁ……!」
己を見下した紫髪の女めが――タダでは済ませぬ!!
あの方より与えられし眠りの力がこんな程度で終わって良い筈がないのだから!!
殺す。殺してやる。
捕えてお前も売り捌いてやる。
汚して四肢をもいで未来永劫飼い主に飼われるだけの生にしてくれよう!
全ては集う。遥か過去から今へと通じ、全ては奴隷売買で栄えた都の地へ。
決戦の地へ――全てが集う。
※ラサの砂漠地帯に位置する『砂の都』の位置が判明しました!! ラサより依頼が訪れています!!