「まったく――嫌という程、騒がしいわ」
傲岸不遜たる剣客は邸宅の窓から見下ろす風景に吐き捨てるようにそう言った。
追い詰められたシルク・ド・マントゥール――乾坤一擲の大暴れは商人の町サリューにも届いていた。
街にサーカス一味が現れた報告は暫く前にやって来ていて。狂気を蔓延させる傍迷惑なパフォーマーは我が物顔で街を闊歩している。
「まぁ、面白い芸人達だよ。いや、正しくは彼等の芸なんてどうでもいい――」
端正なマスクを皮肉に歪めた金髪の男――クリスチアン・バダンデールは冷ややかに続けた。
「――私に飽きられているのを自覚出来ない、その愚かさが愉快極まる。
チェック・メイトで投了も知らない品の無さにはほとほと辟易させられるね」
「成る程! 神にでもなったような口振りじゃ。まさに主こそが連中に勝る道化よな!」
彼の言葉に剣客――死牡丹梅泉はカラカラと笑い声を上げた。
「連中に天啓を受けた者の言葉とは思えぬな?」
「子は親を超えるものだよ、バイセン。第一、私は確信しているんだ。
あんな連中に触れなかったとしても、私は何れ目を覚ましただろうと――ね」
クリスチアンはサーカスの訪れと共に『覚醒』した。
されど彼は<終焉(ラスト・ラスト)>に囚われてはいない。
彼の楽しみはこの世の終焉には無く、自身の楽しみを吟味する為に時を待つ理性を持ち合わせていた。
酷く静かに。酷く深く狂った彼はこの世の全てのゲイムに見立てる。
その彼は底の割れた手品(サーカス)に付き合う心算は無かった。つまる所、騒がしいばかりで場を乱し、やり難くさせる彼等の早期退場を望んでいる。ましてや『維持する情』こそないが、彼等がクリスチアンの基盤たるサリューに被害を出すならば面白い筈もない。
「――さて、面倒事を片付けるとしよう」
「魔種、といったか。それともアレはキャリアーか?」
「どっちでも構わない。大した問題じゃないさ」
気楽なクリスチアンに梅泉は「ほう?」と視線をやる。
「どの道、君が斬るんだろう?」
「他力本願か。戯けが、わしを使い走るな」
「いいや。使い走るとも。だって君は間違いなく――『魔種を斬りたい』。
実際、魔種が来てるかどうかなんて知らないけどね。
何かにつけ、強そうな相手を仕留めたがるのが『ケンカクショウバイ』ってやつだろう?」
「――は」
鼻で笑った梅泉は確かに、反論の術がない。
斬りたいかどうかと問われれば大いに斬りたいし、事実として斬り捨てる。
そんな彼は腰の業物に触れて、ふと考えた。
(この間ここに来た連中はどうしておるか――
……まぁ、愚問よな。連中もサーカスを斬るに違いない)
ならば、鈍る必要もない。多少の運動は健康の為にも必要だ。
折角寝かせた連中の前菜に――或いは食前酒に。
牛飲馬食のサーカスを逆に食らうも興というもの。