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天使症候群

 この世界には天使なんか存在していない――

 再現性東京<アデプト・トーキョー>2010街・希望ヶ浜地区。
 東京都西部に位置するとされる中核市であり、よく『希望ヶ浜県』『埼玉でいい』『山梨の領土』と揶揄されるこの場所は古い町並みの再開発を続け続けた。海に面さぬ場所だというのに希望ヶ浜――というのは、古い水害によるものであり、旅人の出自からとられたという見方が多い。
 2010街と表記されているがそれは便宜上であり、特異な発展を告げたこの地区は昭和、平成、令和の三元号を跨ぎ、有り触れた異能、異質、違和から目を背けた『ある者にとっての日常』を謳歌しているのである。
 この場所には悪性怪異<夜妖>と呼ばれる異形が無数存在し、希望ヶ浜学園率いる『始末屋』や特異運命座標が率先して怪異の討伐を行う日々だ。それもこの日常を護る為。有り触れて在り来たりで気でも狂いそうな平凡さを誰もが謳歌したいと考えていたからだ。それこそ『気が狂ってでも』嫌な程にファンタジーへの異世界転移を認められなかった者達が臭い物に蓋をして知らず存ぜずと日常を謳歌しなくてはならないのだから――猫の手も借りたくなるという事だろう。

 ならば、悪性怪異の定義とは。
 人を害する存在を悪性怪異と呼ぶのは致し方がない。
 然し、人に害を与えぬ存在が居るとのも確かだ。良性怪異? 笑わせる。
 怪異と名が付く時点でその存在が悪だと断じられたらそれを否定する事は誰にもできない。
 本題だ。
 悪性怪異<夜妖>には人に憑きその身を乗っ取らんとする憑依型の怪異が居る事を皆はご存じであろうか。
 悪霊や悪魔が憑いたと表現するのが最も容易であろう。其れ等は対象者の心身へと多大な影響を与える事で知られている。希望ヶ浜外部に存在するモンスターにも見られる憑依型モンスターと何ら遜色はない。
『飼い慣らす』ことが出来る例はいくつも存在している。例えば、だ。『始末屋』が関与して悪性怪異と『交渉』した例も存在すれば、そもそも害のない怪異まで存在しているというのだ。害がなければそれは悪性怪異とは呼べぬではないか――あの『猫又』の夜妖に憑かれて外見に変化が出たのみで終わった少女もカフェ・ローレットに出入りしているではないか。
 さて、希望ヶ浜地区の『北』側の中核を担っている澄原病院にて特異的なケースが判明した。

 その症例は『天使症候群』と名付けられる。天使と名乗る夜妖は最早命尽きかけた者へと慈悲が如く延命処置を促したらしい。然し、そうした存在はないか対価を必要とするだろう。
 患者である少年の身の回りでは不幸が起きる。澄原病院に入院する彼は不吉の死神と綽名され、彼の周りでは常に不審な死が発生するそうだ。
 夜妖憑き診療専門医にして澄原病院院長である澄原・晴陽は報告をこの一文で締め括った。

 ――夜妖を討伐すれば、患者の少年は死ぬ。然し、彼が居るだけで回りには不幸な死が訪れる。
 ……果たして、我々はどちらを選ぶべきか。
 これについて、特殊判例として希望ヶ浜学園へと報告するとともに、対処を願う――



 ――?????


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