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テーモスよ。使途の使命がわたしに委ねられたのは、真の正義を彼らに得させるためであり、流転の理に基づくものである。
強欲を捨て去り清廉と謹厳をもちなさい。
かの川を恐れるな。
流転の果て、忘却の彼方に永遠の生命は存在する。
そのことが自ずから祝福に満ちた尊厳を、あなたに与えることになる。
――アラト書テーモスへの手紙 第一章二節
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白亜の都フォン・ルーベルグの中心には、数々の歴史ある聖堂が建ち並んでいる。
その一つ。サン・サヴァラン大聖堂は一般信徒の立ち入りが禁じられた、文字通りの聖域であった。
天義聖銃士隊(セイクリッド・マスケティア)に護られる大礼拝堂に踏み入ることが出来るのは、特別な儀式でもない限り通常は司教以上の聖職者に限られている。
そんな大礼拝堂での貴重な説法を聞き終えて。司祭達は己が使命を果たすため、次々と退室する。
最後の一人を見送ったアストリア枢機卿は、大礼拝堂に鎮座するレーテー石をひと撫ですると、通路へと軽やかに飛び降りた。
さて。肩で風を切り向かう先。
――首都のハズレに、カルドルーチェの丘と呼ばれる広場がある。
木々に囲まれた静かな場所で景観も良いと言えば良いのだが。もっとも目立つものが古い墓地ということもあり、あまり人気のある場所ではない。
さて。そんな丘が、この日は物々しい空気に包まれていた。
「おい。ブラザー・ロガリ」
深紅の装束を纏う少女――悪名高きアストリア枢機卿が背後を睨むと、屈強な司祭が腕を組み腰をかがめた。
アストリアはそこに足をかけ、肩へ座る。
ようやく開けた視界から見下ろしたのは、つばの広い帽子を胸に押し抱く銃士達。アストリアの私兵であるセイクリッド・マスケティアの面々であった。
「諸君、喜べ。汝等に聖獣が遣わされる運びとなった」
アストリアが両手を広げる。
舞い降りたのは、黒翼の怪物。痩せぎすの身体としわくちゃな頭部。口には牙が生えている。どこからどうみても文字通りの小悪魔だ。
「げ、猊下」
銃士の一人がそう発するまで、いくらか時間があった。
「なんじゃ、申してみ」
いくらか迷った後に、訪ねる。
「聖獣……に御座いますか」
「左様。正義を尊び邁進する汝等を守護する御使いじゃ」
銃士達は互いに目配せし、頷いた。
「この際じゃ、汝等にも聖霊の御声を聞かせてやろう。そこへ直れ!」
「ハッ!」
――……ッ!?
銃士達が一斉に頭を垂れる。
脳髄を抉るように響く『原罪の呼び声』を聞きながら。
※『期間限定クエスト』が開始されました。