ラサのザントマン事件の動向は深緑でも常に探っていた。
深緑は民に被害出ている以上、被害者側の立場である。
されど深緑の指導者リュミエは被害者だからと立場に甘んじる事を是とはしなかった。ディルクから齎されるザントマン事件の情報は勿論ありがたく頂くが、それはそれとして深緑でも独自にザントマン事件の動向は調べていたのである。
結果として判明したのは――事件を主導していたのは深緑出身の幻想種である事。
「オラクル、という人物ですか」
「ラサの中では古参の商人に位置する人物です。先の、赤犬派とローレットの共同作戦による奇襲でかなりの打撃を受けたようですが……まさか犯人が幻想種だったとは」
リュミエと、深緑を護るレンジャー部隊の長ルドラは間違いのない情報を見て言葉を交わしていた。
民の間では、どうせ幻想種特有の『永遠の若さ』を羨望する他種族の仕業だろう――そういう考えも一部では多かった。人は己に無いモノに価値を見出し、求めるモノである。
しかし実は『己も持っている』深緑出身の幻想種が、一連の奴隷売買の犯人だったとなれば深緑はただの被害者とは言えなくなる。被害者であるという事に変わりはないが、それは結局ラサからと言うよりも深緑から湧き出て来たオラクルという膿があった故が正確な訳で。
「――しかしまさか。これは」
オラクルという幻想種が罪なき幻想種を他国で売り捌く――そんな罪の報告は衝撃であった。
しかしリュミエにはそれよりも更に、意識を鈍器で叩きつけられたが如き情報があった。
先のラサでの攻防の最中に出てきた新たな魔種の存在。そしてその名前……
「カ、ノン」
名を見た時あらゆる思考が停止した。
クラウスが探して――しかし結局その終生に至るまで連れ戻す事叶わず。
うっすらと、もう二度と会えないだろうとどこか思考の片隅に在った筈の名が。
「……リュミエ様」
ルドラの言葉で意識が現実に呼び戻される。
……永き時を経ているからか、積み重なった過去へ思考を寄せる事がままあるのは悪い癖だ。クラウスも生きていれば『おいおいまた回想シーンかよ』などと背中から茶化して来た事だろう。
全く本当にいやな人である……今に至ってもなお、あの声色を忘れたことなど一度もないのだから。
頭を振る。緩く、しかしそれだけで十分で。
「……ルドラ。今すぐ動かせる足の速いレンジャー隊員はどれぐらいいますか?」
「そう多くはありません。が、ゼロではありませんので至急編成します。
……ただ『動く』のはあまり宜しくないと存じますが」
「承知の上です」
深緑は他国に対して基本的に非干渉だ。緩やかな同盟があるラサに対してもその基本姿勢は変わらない。
完全排他ではないが民の意識からしてその傾向は強い。如何なる形であれ他国の地へ踏み込もうとするなら、その行動に反発する者も少なからずいよう。ルドラはそう言った傾向を考え『あまり宜しくない』と進言したのである。
……だが。
動かなかった。動けなかった。あと数秒、あと一秒、あと一瞬。
声を掛けるのが手を伸ばすのが早ければとどれだけ『あの時』後悔した事か。
二度目はないのだ。同胞も苦しんでいる最中に、もはや手を伸ばさない選択はなく。
「『砂の都』へ行きましょう。同胞を救うため、そして――此度の事件、全てに決着を着けるために」
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※ラサの砂漠地帯に位置する『砂の都』の位置が判明しました!! ラサより依頼が訪れています!!