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我が世誰ぞ、常ならむ

 軍事国家、ゼシュテル鉄帝国。
 生きるに厳しい大陸北部を領土とするこの国は、常に領土と資源の問題に悩まされていた。
 そんな鉄帝にとって、海洋資源が豊富で暖かい気候に包まれているかの国の風土は非常に魅力的であった。
「フン……軍議会の連中め、そろいもそろって腰抜けになったか」
 鉄帝首都。闘技場へ続く大通りの一角。
 時には軍のパレードも開かれるこの通りにある黒いベンチに腰掛けて、軍服の男は息をついた。
 買った新聞を広げれば、『練達で連続猟奇事件』や『幻想に新世界ありや?』や『海洋王国の大号令! 国民は外洋へついに進出か!?』といった記事が踊っている。
 中でも特に大きいのが、ネオフロンティア海洋王国の記事だった。
「海洋の稚魚どもが『大号令』なんぞを発令したというのに、まだ軍を動かさんとは。
 奴らが力をつければ資源を獲得するチャンスを失うかもしれんのだぞ」
「ヒヒヒ旦那ァ、そりゃあ無理ってもんさ。下手に動きゃあラサと天義がここぞとばかりに侵略してくる。軍事国家ってのは、突っ張るのをやめたら終わりなんだろう?」
 独り言をぶつやく男の『すぐ隣』で、いかがわしい雑誌を広げた商人風の男が引きつるように笑った。
 お互い手にしたものを読みあさるフリをしながら、独り言のように話し始める。
「ハイエナか。例の情報は手に入ったんだろうな」
「そりゃあもう。アンタのご指名とあらば何だって手に入れてみせるさ。ショッケン将軍殿?」
 一枚のなにげない茶封筒を脇に置くハイエナ。
 ショッケンもまた、全く同じ茶封筒を脇においた。
 二人はそれを、あたかも取り間違えたかのようにスッと自らの懐へと入れる。
「海洋王国海軍が動き出した。その海域にいけば『名ばかり艦隊』に遭遇できるはずだぜ」
「数は」
「名ばかりって言ったろう? せいぜい二隻。それも戦いなれてない連中さ。奴らを派手に血祭りに上げればアンタが推進するあの……」
「喋りすぎだ」
 新聞をたたみ、席を立つショッケン。
「貴様は闇商人らしく小銭を稼いでいればいい。国政に口を出すな」
「へいへい、怖いねえ」
 ショッケンが立ち去った後で、ハイエナは封筒の中に入った多額の金に顔をゆがめた。
「所詮この世は無間地獄。どうあがいたって、醜くくたばるだけだってのによ」

 ――鉄帝に怪しい動きがあるようです


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