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第三次グレイス・ヌレ海戦勃発!

『秘密拠点』エスペヒスモにて――
「まさか本当に鉄帝国が動くとはな」
『トライデント』首領・バルタサールの言葉は少なからぬ驚きの色を含んでいた。
「だから、吾輩の言った通りだっただろう?」
 駆け巡った情報に今まさに沸き立つ海賊達の様子を眺め自称『ドレイク』は実に気安くバルタサールの肩を叩いてみせた。

 ――ま、吾輩を信じるかどうかは『賢明なる』諸君次第だが?

 あの時、実に気楽に始まった彼の話は少なからぬ驚きをもって一同に受け止められたものだ。
 彼の情報は不凍港ベネクト――つまり、鉄帝国の軍港に大規模な動きが見られるというものだった。

 ――吾輩の読みでは間違いなく鉄帝艦隊は南下作戦を実行し、恐らく二国はグレイス・ヌレで会戦となる。
   そこにちょっかいを出していけば、駄目元の玉砕より、逃げ回るより幾分有利になるという訳だよ。

 そう語った『ドレイク』の言葉に当然ながら海賊達は懐疑的ではあったのだが、最終的にはバルタザールの一声でこれに備える事を決めていた。それは『父を知る』と語る男にバルタザールが『予感』を覚えたからに他なるまいが、結果的に海賊達にとってこれは正解だった。鉄帝国は味方ではないから依然状況は厳しいが、取り得る手段が増えたのは抜群に上手い。
「最良は……そうさな。両国軍が深刻に損耗し、喧嘩別れ……だな?」
「御名答だよ、バルタザール。そうなる為には有利な海洋王国を叩かなければならない。
 ……何せ『あの』皇帝ヴェルスの親征だというからね。
 想定外の事態は覚悟しないといけないが――まぁ、それはそれだ。
 第一、あんな嵐の中心に突っ込むのは損しかないからねェ!」
「違ぇねぇ」
「諸君等は、我々は! 安全地帯から一気に奪う。やる事をやって、殺すべきを殺して――
 嗚呼、それこそまさに海賊の得意! ラムを飲み干し、他人の干し肉を喰いちぎろう!
 そうして大いなる海に不遜を刻むのが我々海賊の流儀じゃあないか!」
「言うねぇ! 流石『ドレイク』だ!」
「こりゃ『ドレイク』様々だぜ!」
 大仰にして物騒なる宣言に周囲の海賊達が気炎を上げた。
「……信じてないねェ。別にいいけど」
 人好きのする調子でカラカラと笑う『ドレイク』にバルタザールは口元を僅かに緩めていた。
 怪しい。兎に角怪しい。とんでもなく怪しい。正体は不明で、全く何が目的かは知らないが――嫌に魅力的な男だった。
 話を聞く程にバルタザールは胸の奥から湧き上がるある種の期待を禁じ得なかった。
 海賊提督と呼ばれた男が、他人にそんな感情を抱く事はもうずっと無かったと言うのに。
 暖まった海賊達の場に一報が届く。

 ――第三次グレイス・ヌレ海戦勃発!

 一瞬で顔を引き締めた海賊達はそれぞれの船に乗り込み、エスペヒスモを出撃した。
 彼等にとってこの戦いは生存をかけた乾坤一擲の一戦である。
 招かれざる客は暴れ尽くさなければならない。
「……アンタは?」
「付き合って欲しいかい、バルタザール」
「正直を言えばな。俺は――」
 バルタザールは一瞬だけその先を言う事を躊躇した。
 しかし、一拍の間を置いて何とも複雑な表情で先を続けた。
「――俺は、アンタが『本物』じゃねえかと思い始めてる」
「さあ、どうだろうねェ?」
 そんなバルタザールを肩を両手で叩く。
 ウィンクを一つした『ドレイク』は旗艦ブラッド・オーシャンに口笛を吹いて乗り込んだ。



※鉄帝国艦隊南下の報有り! ソルベ卿よりイレギュラーズに緊急招集がかかりました!
 海賊連合艦隊出現の報有り! イザベラ女王よりイレギュラーズに緊急招集がかかっています!
 第三次グレイス・ヌレ海戦が今勃発しようとしています……!


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