縛り上げられた兵士を見下ろして、『付与の魔術師』回言 世界(p3p007315)は静かに戦闘の激しさっでずれ落ちかけていた眼鏡をスッと上げ直す。
「……あぁ、分かった。分かったよ。降参だ。俺は、降参する。
アンタらに情報を提供するさ。その代わり――」
少しばかり上等な装備をしたその兵士は、世界を見上げてそう呟いた。
「言うだけ言ってやるぜ。その情報が正しいかの証明が取れないことにはどうしようもないだろうが」
「……はっ、それもそうだ。いいか、イレギュラーズ。
我ら兵士長はあの方から直々の下命を頂くものだ」
兵士長――自らの立場をそう告げた男は、ひとたび目を閉じる。
「そうだ。我らはあの方に忠実である。あの方と――我らがオランジュベネ家に。
だからこそ、あのお方はそのお力を十全にして――我らに直に命じたのだ。
怒りを煽り、我が下に集めよと。貴様らにはその力を分け与えようと」
「つまりアンタは、怒りの感染源ってことか……だが、今自分で忠実だと言っていただろ。
情報を漏らせばこっちの有利になる」
「――――だからこそだ。我が主は負ける。あのお方の無謀を止めるのに、裏切り者とそしられること程度受け入れよう!」
ぎらつくその目には若干の狂気を纏っている。
幸いにして、世界は『旅人』であった。この世界の――原罪の呼ぶ声に、導かれることはないのだ。
尋常じゃない速度で爆ぜるような急加速を遂げた大剣が、魔物を断ち割り、兵士に刃を突き付けた。
「ひぃぃぃ!!」
突き付けられた兵士が、手を挙げて慌てふためいた。
その様子を見下ろしているのは可愛らしい町娘だった。
目を引くほどの大剣を突き付ける『大体普通の町娘』プラウラ・ブラウニー(p3p007475)は、そいつを縛り上げてからほっと一息ついた。
「へ、兵士長はいるか!? いないか! いないよなぁ!」
震え声でその兵士がプラウラをみる。兵士長――であるのかは知らないが、今ここには彼以外居ない。
「あぁ、良かったぁ……助けてくれ! 頼むよ! この通りだ!!」
縋りつくようにして兵士がそう告げる。
「じょ、情報がある! 情報があるんだ! 頼むよ!」
震える声でそう告げる兵士に、プラウラは少し首をかしげる。
「いいか、俺は別に、王国へ弓なんて引きたくない! だけどよぉ、兵士長って人達が言うと、目の前が真っ白になって、かーってよ!」
情報にさえならぬ言葉だったが、一つ言えることがある。
これは、今までの兵士が言わなかったこと。
それはつまり、何らかの影響が出ているのはたしかであるという事だ。
――――――――――
――――――――
――――――
――――
「…………なるほど」
テレーゼは情報を漏らす者がいたといって伝えにきた彼岸会 無量(p3p007169)、『月下美人』久住・舞花(p3p005056)の話を聞き終えると、少しばかり考えた様子を見せる。
「ありがとうございます。こちらの情報は皆さんの方でも共有していただきましょう」
「罠である可能性はありませんか?」
無量の言葉に頷きつつ、テレーゼはしかし、と告げる。
「実は、お二人以外にも、複数の方々が同じような内容の口漏らしを報告していただいてます」
「口裏を合わせて、御情報をこちらに渡している可能性は残ってるんじゃないかしら」
テレーゼの言葉に今度は舞花がそう問いかける。
「そこまで考えてやられると、こちらとしてはお手上げですけれど……皆様のご活躍でおじの能力が低下している様子だとも聞きます。
戦いを始める頃より統率が乱れている可能性は大いにあると思います。
この兵士長とやらが、伯父の軍勢にとっては必要不可欠なのでしょう」
「ちょっと失礼するんだぬ!」
ニル=エルサリス(p3p002400)はそんな言葉と共に元気よく扉を開いて中に入ってくる。
それに続くような形の『彼女は刺激的なジュール』シエル(p3p007084)もまた、こちらは少しばかり艶のある雰囲気を引いて入ってきた。
「――――」
彼女らの告げた言葉を聞きながら、テレーゼが疲れ目に微笑みを浮かべる。
「やっぱり、単純に影響力が下がってるそうです。
恐らくは、この兵士長とやらが原罪の呼び声のキャリアーとして各地で狂気を振りまいているのでしょう」
この数度に告げられる複数の情報を纏めながら、テレーゼはその表情を久し振りに綻ばせる。
「このままいけば、もしかするとじきに伯父の狙いも浮き彫りになるやもしれませんし」
※イオニアスの麾下、兵士長と呼ばれる者達がイオニアスから受けた呼び声のキャリアーとなり、活動している模様です。
クエスト『Battle of Orangebene』の終了が近づいている予感がします!
クエスト『空には花火が咲いていた。混沌の夏。海洋の夏。おぜう様との夏。』が9/15に終了予定です。