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闘技場は今日も揺れる

「「K・O・N・G! K・O・N・G!」」
 歓声と拍手が地鳴りのごとく響くここは鉄帝の中心ともいうべき大闘技場ラド・バウ。
 今日も有名選手のファイトを見物しに多くの観客たちが座席を埋めていた。
 そんな中……。
「ハァーァ……今日もパルスちゃんは最高だったのだわ。帰りにTシャツ買って帰ろうかしら」
 つやつやした顔で通路をゆくアーデルハイト・フォン・ツェッペリンの姿があった。
 ゼシュテル生まれの闘技場育ち。ファイター好きは大体友達。齢13歳にしてなかなかの顔の広さをもつ彼女は、ラド・バウのような有名闘技場のファイターのみならず、その関係者や裏闘技場のファイターにも精通していた。
 その例として……。
「ああっ! あれはアリス・メイル!? 名工にして名ファイター! 石版サインをもらわない手はないのだわ! サインくださーーーい!」
「おや? ツェッペリンのお嬢ちゃんか。もう何回もサインしたのに、飽きねぇなあ」
 石版とノミを持って駆け寄るアーデルハイトに気づいて、アリスは手に持っていたコーラカップのストローから口をはなした。
 そして受け取った石版にノミで素早く名前を刻み込んでいく。
 と、そんなとき。
「――ハッ!? そこにいるのはもしかして、ウサミ・ラビットイヤー!? 地下闘技場のファイターとこんなところで会えるなんて!? 今日はラッキーなのだわ!」
「ひぇ!?」
 後ろをそーっと通り抜けようとしていたウサミ・ラビットイヤー(リングネーム)は半分寝かせていたウサギ耳をピンとたてて振り返った。
「ば……ばれてしまっては仕方ないぴょん? いかにもワタシは――」
 ウサミは得意のポーズをとってみせた。
「文字通りの地下アイドル、歌って殴れるウサミミアイドル、ウサミだぴょん!」
 もう何百回やったかわからない熟達した名乗り文句に、アリスは『おや?』と振り返った。
「なんだ地下ファイター、とうとう表の闘技場でやる気になったか?」
「いやいやまさかアハハ、ちょっと様子を見に来ただけですよ。……ですぴょん!」
 アリスの圧に若干おされ気味だったウサミだが、すぐに調子を取り戻してキャラを維持してみせる。
「最近。首都に新しい闘技場ができるって聞いたぴょんよ! 建設予定地がちょっと馴染みのある土地だからそのー……」
 あまり話すべきことではないと考えたのか、ウサミは途中でもごもごと口を抑えた。
 その様子に苦笑するアリス。
 一方でアーデルハイトは『ウサミさんサインくださいなのだわ!』といって石版を突き出していた。

 そんな様子を、VIP席からなにとはなく眺めるけむくじゃらの男、かつての大スターであり『閃電』の異名を持った元ラド・バウファイター、バルド=レームである。
 彼の隣には軍帽で顔を隠した男が一人。
「協力してはくれませんかな? 剣聖『閃電』殿の名声があればスラムの連中も多少は言うことを聞くでしょう」
「その『連中』というのをやめろ。彼らも立派な鉄帝国民だ」
「おっと失礼」
 隣の男は嫌味っぽく笑うと、封筒をバルドの前に置いた。
「考えておいてくださいよ。スラムの土地開発は国益にかなう。雇用も生まれ犯罪も減り経済も回ってみんなシアワセになれますぞ?」
「フン……どうだかな」
 バルドは封筒を男に突き返すと、きゅらきゅらとキャタピラ義足を動かしてVIP観戦ルームを出ていった。

 ――鉄帝で都市開発計画が持ち上がっているようです……。


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