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騒乱の島
(……あ、駄目だ)
 酷く月並みな表現になるが『信じていた』。
(駄目だ、私。ちょっと感激して泣きそう……)
 酷く抽象的な表現にはなるのだが、少なくとも『来てくれるまで』は。
 根拠は薄弱であり、希望的観測が過ぎる。しかして、イリス・アトラクトス(p3p000883)がそう信じていた通りに――果たして緊急招集された海洋王国軍とローレットの連合主力大部隊は彼女とエルネストが救援を待つ島を――アクエリア目掛けて目の覚めるような進撃を果たしていた。
 アクエリアはイリスやその父エルネストの理解していた通り、決して安寧の場所では無かった。
『絶望の青』において珍しい位の好ロケーションを備えたこの島はその実、魔種達の拠点である。
 騒乱の時が近付いて来れば自ずとそれを痛感する羽目になり、
「お父様!」
「……ああ」
 父娘は味方がこの戦場の趨勢を決めるまでの間、戦い、耐え抜き、逃げ延びる事を余儀なくされていた。
 休憩により幾らか体力を取り戻したイリスが持ち前の堅牢な防御力を発揮し、襲いかかってきた『陸の狂王種』を跳ね除ける。
 エルネストは娘のその動きに目を細め、何かを言うでもなく複数の敵を翻弄する。
 そんな中々複雑な、中々不器用な父娘の共演は――本意であり、不本意でもあった。
(こんな時じゃなかったら……)
 山程抱えた『思う所』を素直に口に出来る年頃では無い。いざ目の当たりにする父は強く、果断で――すぐ喉元まで出かかった「ごめんなさい」の一言を却って封じさせていた。
 彼女の思う通り、こんな時じゃなかったら――もう少しストレートに伝えられたかも知れなかったのに!
「イリス、ペース配分を忘れるな。
 沖合では戦いが始まっているようだが、敵の数が多い。
 連合軍がこの島に到達するまでには――かなりの時間が掛かるかも知れん」
「……はい。お父様もお気をつけて」
「ふむ。こちらを案じるとは――見ない内に言うようになったな」
「もう、からかわないで下さい」
 つい先だってバルタザール相手に『無理』をした手前、イリスは少し罰が悪くそう応えた。
 結果的に父をこの冒険行に付き合わせてしまった負い目があったのだが――当のエルネストはそんな事を考えている様子も無く、どこ吹く風で彼女の隙を埋めるように見事な援護と戦闘を見せていた。
(兎に角、頑張らないと――)
 一度は亡くした命だが、二度失くすのは御免蒙る。
 但しイリスはこうも理解していた。
(――頑張らないと、もうあの場所(ローレット)には戻れないかも知れないから)
 己が運命は、今まさに激戦を繰り広げる仲間達にかかっている。
 ならば、自身がしなければいけない事は『彼等が来るまで生き延びる事』だけだ。
 無理を承知で、危険を承知で。廃滅病も先の不安も一切合財呑みこんで。
 彼等がこの場所にたどり着いた時、助ける相手が居ないでは余りに残酷というものだから。



※アクエリアを舞台にした戦いが始まっています……!


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