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<奪って生き延びてしまったのは、>

 古代遺跡、そのコアルームに辿り着いた『聖女』アナスタシアは目を剥いた。
 一面の赤に蠢く何かが存在している。ごうん、ごうんと何かの音がする。まるで獣の胎の中にいるかのような錯覚に陥らせるその音を聞きながら『聖女』は震える声で聴いた。
「『何』だ」
 古代遺跡の中ではショッケンを始めとする帝国軍人たちが多数存在し、イレギュラーズとの攻防を繰り広げている。
 多方面から作戦の成功は聞こえるが、完全成功に至らない事からこのコアルームに運び込まれた子供達が多数いるという事をアナスタシアは認識していた。同様に、『血潮の儀』と呼ばれる全容が明らかになってはいないこの儀式を把握し、破壊することも自身に課せられた試練であるとも考えていた。
 だからこそ、彼女は一人で来た。
 共に声をかけてくれた特異運命座標の希う未来の為にも。
 仲間は居ると力強く言った特異運命座標が無事に撤退できる時間稼ぎをする為にも。
 命を賭してでも,誰かの未来を護ることが聖女だという自負を抱きながら。
「これは……?」
 ひゅ、と息を飲むと同時にアナスタシアは『視』た。
 無数の腕が、蠢いている。赫々たる世界で肺の奥深くまで入り込んだ血潮の香りを感じ取りながら。
 確かに『視』た。
 それと同時に、彼女は悟った。

 無理だ。一人でなど。
 無理だ。救うなど。
 無理だ。聖女でいることなんて――私は、奪って生き延びたのに。

 アナスタシアが『儀式』を視た時、体の中に、何かが入り込む感覚がした。
 酷い酩酊の後、視界を覆う黒き靄が喉奥を突き刺した。錆びた鉄の香りがその身体を包む。
 頭の中にガンガンと直接的に何かが渦巻いた。
 苛立ちと共に、笑う声が響く。

 ――救えないくせに、聖女だなんて。
 ――奪ったくせに、聖女だなんて。

 嗚呼、嗚呼。
「助けて」
 心の臓を握り潰されたかのような絶望と、不快感に唾が咥内に滲む。ぼとりと口端から落ちるとともに、彼女は叫んだ。
「助けて――ヴァリューシャ!」
『聖女』――だったものの、体が黒く染まっていく。
 呑み込まれるようにして女の体は闇に染まる。
 頭の中に響く、響く、響く――!

 その後、『聖女』の姿を見た者は居なかった。

 ※鉄帝国の騒乱に動きがあったようです……!


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