リヴァイアサンの頭が揺れた。
天にのた打つ雷のように左右に軌跡を残したそれは、怒りの声と共にやがて眼窩のイレギュラーズ達――竜に立ち向かう艦隊をねめつけた。
おおおおおおおおおおお!
くねり、猛スピードで獲物を襲わんとしたその顎は哀れな犠牲者――軍艦の一隻を冗談のように噛み砕いていた。
――ハ、ハ、ハ! 脆い。余りにも!
天が笑う。
次はどれだ、とばかりに獲物を探している。
「き、緊急退避――!」
悲鳴にも怒鳴り声にも近い命令を発したのは果たして誰だっただろうか。
大顎が開き、その奥で激流が渦巻いている。海洋王国艦隊を薙ぎ払った破滅の水が。
何事も無かったなら、その艦が辿った運命は間違いなく一つだっただろう。
何事も無かったなら――
「させるかよぉぉぉぉぉッ――!
おいタコ野郎、この上ヘマしやがったら承知しねぇぞ!」
「誰にモノ言ってやがる! 今すぐ船から叩き落としてやろうか!?」
――横合い死角より、猛スピードでリヴァイアサンの頭部に突っ込んだ魔種『蛸髭』オクト・クラケーン(p3p000658)の艦が居なかったなら!
ごああああああああああ――!
衝角(ラム)のぶち当たった竜種の頭が咆哮を上げた。
僅かな、それでも確かな痛みに暴れのた打つ。滅茶苦茶に荒れた海、大波、小波をかわすようにオクトは見事な操舵を見せていた。
「……それにしてもお前、良く生きてたな」
「あん? 俺様が死ぬ訳ねぇだろうが」
「……カカ、確かに。そういやそうだったな。それで、兄弟は」
「立派な奴だったよ」
短く応えたグドルフ・ボイデル(p3p000694)にオクトは「そうか」とだけ答えた。
オクトの艦が『キロネックス』との激戦の末、彼の兄弟――スクイッドと共に海中に沈んだグドルフ・ボイデル(p3p000694)を拾い上げたのはつい先程の事だ。
「……本当に、な」
グドルフは全身を侵す廃滅病と傷に死に体となったスクイッドとのやり取りを思い出す。
――おい、ふざけんな! しっかりしろ、テメエ、男だろうが!
――アイツ(オクト)の兄弟分なんだろうが、黙って捨て置けるか!
クソ、狂王種共が群がってきやがる――
――スクイッド、しっかりしやがれ。オクトと約束したんじゃねえのか!
俺はまだ死ぬわけにはいかねえ。あいつらを残して死ねねえんだ。
お前もそうだろ!? 勝手にくたばるんじゃねえ。生きて、帰るんだよッ!
スクイッドの巨体の隙間――から空気を得たグドルフは、帰還の為の戦いに尽力した。最早人語らしい人語を発する事さえ難しいスクイッドとグドルフのやり取りは或いは一方的なものであったかも知れない。グドルフは死に体のスクイッドを必死で支援して、あくまで彼と共に戻らんとやれる事を全てやった心算だった。
(なあ、カミサマよ。全くそのやり口は分かってた。
全く都合のいい話だぜ。お前が誰も救わねえのも知ってるからな。
だが――今日だけは少し位は感謝してやるぜ……)
スクイッドと共に沈みかけた暗黒の海に沈んだ船の残骸があった。
貴重な時間を犠牲にし、辛うじてその船を暴いた時――そこにはグドルフの望んだ最後のチャンスが残されていたのだ。
何の事はない。それは『単なる財宝』である。
海賊が目を輝かせそうな、煌びやかな財宝。金貨に宝石褪せない輝き。
それを全力で撒き散らしたなら――うろつく狂王種共の注意を奪う力はあった。
いよいよ、よろつくスクイッドを励まし、水面を目指した。だが、結局は――
「テメェにゃ勿体ない『兄弟』だぜ」
――スクイッドは最期の瞬間、自身を盾にしてグドルフを守り切った。
オクトの船に辿り着けたのはグドルフだけ。狂王種の群がったスクイッドの巨体は二度と浮かび上がってはこなかったからだ。彼の挺身の理由をグドルフは聞いていない。唯、そうなった理由を思うなら。『敵であった己さえ見捨てぬグドルフの行動』と『そんな男にならば兄弟を任せられる』と考えた彼の期待であったかも知れなかった。
――我をこの上怒らせたな――
暴竜の威圧は止まぬ。
全力の一撃を叩きつけたとて健在なるそれにオクトは肩を竦めていた。
「兎に角、ここからが勝負みてぇだな」
「ああ……ま、そりゃあそうだろうよ!」
不敵に笑う『海賊』と『山賊』。
「キドーの野郎も……プラックも。どっかでもう一度拾ってやれ!
カカカカカカカ! 『三賊』揃って、もう一丁――暴れてみせてやろうじゃねぇか!」
「そういう事だぜ」
グドルフは力をぶす。
「『主役は遅れてやって来る』って言うだろうがよ!」
※グドルフさんの不明が解除されました。
友軍、魔種オクト・クラケーンが出現し、リヴァイアサン頭部への攻撃が可能になりました!