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<神が正義を望まれる>

 その日、ゲツガ・ロウライトは自身と共に戦ったイレギュラーズの一人が『悪しき呼び声』に堕ちたと耳にした。
 言葉なく。机の上に置かれたティーカップに揺れる波紋を眺めたゲツガは報告書をさも興味なさげに塵箱へと放り込む。彼は時にして悪をも成すローレットの在り方を容認してはいないが、同時にイレギュラーズは神の遣わした徒であると認識している。
 それ故に、己が孫娘がローレットに所属しイレギュラーズとして活動していることを静観していた。
 だがそれは『そうした不正義が起こる前まで』だ。
 少なくとも、現時点を持ってのゲツガは不正義の種がローレットにあった事を知ってしまった。
 孫娘を無理矢理に連れ戻すことは容易にできよう。しかしそれを行わぬのは苛烈な正義を行う彼とて『ローレットに所属しながらも悪に手を染めず、正義を遂行』する内は見過すというスタンスを貫いているからだ。
 だがもしも、孫娘がかの聖女のように悪に堕ちたならば――……
 ……いや、この思考自体が無為だ。
 天義の騎士たるもの『一つの不正義』にあれやこれやと思考を巡らせても仕方がない。
 例えば、そう。
 もし万一に、己が孫娘が『そう』なったのだとしても。
「私がなすべきは変わらないのでしょう――神よ」
 嘗て、自身と志を伴にし。そしてゲツガが断罪した――『ヴァークライト』の一件のように。
 不正義は全て裁くのみ。
 その呟きに、執務室の扉の影より覗く孫娘、サクラ(p3p005004)は祖父と共に剣を取った日を思い返す。

 ――どうか聞いてください、ここの月光人形達は……かつてロウライトが断罪した者達です。

 そう、口にした日。祖父が信ずる『正義』に、少女は違和感を禁じ得なかった。
 確かに祖父は高潔である。確かに祖父は潔癖で善良であり、心より正義を願っている。そこに疑う余地は無い。
 しかし、少女は想う。正義の為。未来の善きを守る為。それは同じであるとしても――二者はきっと違うのだ。
 分かってしまった。違うのだ。祖父と自らとでは、ほんの少し。歩く角度が。
「……む、サクラか。どうかしたのか?」
「……は、はい。お祖父様、騎士団より伝令をお持ちしました」
 それは悪戯をした子供が保護者に見咎められた時のようで、至極居心地悪く、罰が悪い。
 隠れていた訳ではないが、気付かれ、意識を向けられて――サクラは内心で幾ばくか狼狽せずにはいられなかった。
 家名を名乗る事があってからというもの、騎士団はゲツガへの伝令をこの孫娘へと持たす事があった。身内とはいえ何故彼女経由なのか、というのはあえて語らぬこととするが――ローレットが天義で活動する以上、中々無碍には出来なかったのだろう。
 気まずそうに視線を逸らした少女が持つは、白に赤の印を飾った一通の封筒。
 その蝋印を一目見るにゲツガは静かに息を飲む。差出人の名を、この都で知らぬ者はいない――
 天義国王シェアキム・ロッド・フォン・フェネスト六世。
「お祖父様……?」
「……サクラ。よく聞きなさい。この都はもう直ぐ不正義の黒きヴェールに包まれる事になる。
 この先何があろうと――決して己の正義を曲げぬよう。不正義にその刃を曇らせぬよう」
『あの』シリウス・アークライトまでもが魔種として現れた報告もある。  コンフィズリーの不正義を継ぐように出現したロストレインの不正義は悪い冗談めいている。
 それは『善悪を気にせず、不正義すら容認するローレットに所属していた天義の聖女が、魔種の父と結託しローレットの勇者達を唆した』という罪だ。
 言葉にするのも悍ましいという様にその名を最早口にする事すらない彼はサクラへ言った。
「いいかね? サクラ。改めて告げる事も無いとは思うが――
 もしもそれと相見える機会を得たならば、その手で速やかに斬りなさい。
 ネメシスに不正義は許されない。果断と徹底――神は何時でも『そういう』正義を望まれるのだから」

※『期間限定クエスト』が発生しています。
※アストリア枢機卿の部隊に甚大な被害が発生し続けているようです。
※天義市民からローレットへの評判が、激闘を続けるイレギュラーズを中心として飛躍的に高まっているようです。
※聖都フォン・ルーベルグを中心に、様々な思惑と運命が交差しようとしています……


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