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<蝶の羽搏きに騙屋は滅びの羽音を聞くか>

 キチキチキチ――――
 どこからか何かの音がした。イレギュラーズ。イレギュラーズ。自身が強くなるためには『駒』が必要である事をギーグルは気付いていた。
 だからこそ、イレギュラーズを仲間にせんと画策したが明けなくフラれて仕舞ったという訳だ。
「モット、モット、力ガ、ホシイ……!」
 キチキチキチ。
 その音を耳にして、つい、と顔を上げたのは清廉潔白なる聖職者。ディスコー神父の息子たるディスコーJr.だ。
 秩序正しき清廉なる市民たちはディスコーJr.はタピオカを喉に詰まらせ死んだと聞いていたが、こうして顔を見せてくれるのはその噂は嘘だったと口々に繰り返す。
 彼の傍にふわりと舞った蝶々を視線で追いかけたギーグルはこの都には魔種も死者も盛り沢山なのだと口元にゆったりとした笑みを浮かべる。
 キチキチキチ。
「神父様、何か……音が」
「虫か何かでしょう。先程は美しい蝶々が舞っていましたし……不安がる事はありません」
 その口調は『とってつけたかのような聖職者』であった。表向きには穏やかに話しているが教会の地下では『楽し気な騒ぎ』を催しているのだから人は見かけによらない。
 騎士団として周囲の警戒に当たっていた騎士の様に『見える』存在は白い耳をぱふぱふと揺らしながらディスコーJr.を見なかった振りをし見回りに戻る。
 舞う蝶々も、聞こえる歯ぎしりの様な音も彼からすると『お仲間』の音に過ぎなかった。
「聖職者ハル・テル・メルルへの嫌疑ですが、全くのデマでしたね」
「ああ、×××さんが仰るのだから」
 聖職者たるクロス・アイ・ギア殿の事も全くの嘘だろう、と騎士たちは口々に言った。
 それこそ、魔種ロストレインが勇者ローレットを誑かすかのように騎士団を混乱に陥れようとした何者かが撒いたデマであろうとでもいうように。
 祈り、捧げ、『癒しの奇跡』と呼ばれる聖女が悪であるなどと口にした不正義の輩を捕まえねばならぬと騎士たちは繰り返す。
 ひらりと妖蝶が舞っている。その鱗粉から僅かに広がる狂気の気配に気づきながらも『騎士』はふんと鼻を鳴らし気付かぬふりをした。

 神父ブロイラーと関りを持った修道女たちも俄かに暗躍し始めている。
「『美味しい』話だ」
 騎士の傍らに立った男はチーズ、ハム、レタス、トマトをふんだんに使ったシンプルなサンドイッチを喰らう様に口を開く。
 だらしなく開いたシャツにマヨネーズが垂れ落ちたがぺろりとそれを拭った彼は『騎士』に噂するように耳打ちした。
「知ってるかぁ~~? 飯の段取りにはサイコーの『美味しい』話が流れてるんだぜ。
 メインディッシュまで待ち遠しいよなぁ~~~~!! あ、紅茶どうだ? 一緒に飲もうぜ?」
「生憎だけど腹はいっぱいなんですよね。あ、それに噂は聞いたには聞いたんだわ」
 口調の安定しない『騎士』は傍らの男――『アッティ』へと笑みを溢した。
「ちょーーっとしたスパイス、知っちゃってたか~」
「ちょっとだけね」
 繰り返した男にアッティはけらけら笑う。

 聖職者達を信じるな、と噂が流れる。
 天義の正義を疑え、そこに神は居ない。
 本当の神を信じよ。愛を信じよ。その鎖を克己せよ。
 さすれば救われん――黄泉還った大切な者をこの『国』から守るのだ。
 故国は幽冥の理に囚われた! 大切な者の命を差し出すほどに、皆は『王の言いなり』か?
 答えは――『否』!
 奪われてなるものか。立てよ、民衆。王と、そしてその側近の騎士団長を引きずり降ろせ。
 正義不正義と『身勝手な基準』で『神を騙った奴ら』に思い知らせてやればいい!
 レテの河を渡る、その賽はもう投げられているのだから!

 フォン・ルーベルグには怪しげな扇動者が絶えていない。
 ――それは、探偵サントノーレが予め目星をつけた数人と事象であった。

※『期間限定クエスト』が発生しています。
※アストリア枢機卿の部隊に甚大な被害が発生し続けているようです。
※天義市民からローレットへの評判が、激闘を続けるイレギュラーズを中心として飛躍的に高まっているようです。
※聖都フォン・ルーベルグを中心に、様々な思惑と運命が交差しようとしています……


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