流転する運命は、決して交わることはない。進むも、止まるも、全ては我らが自由意志の上に存在しているのだ。だからこそ、進むことを選んだ特異運命座標が引き当てた『運命』は『果ての迷宮15層』の攻略失敗であった。
その苦汁はペリカ・ロズィーアンにとっては『当たり前』で、果ての迷宮の攻略は幻想王国の建国王の夢でもあったのだから。それを順々にこなしてきたイレギュラーズがどれ程に優秀であったか。この辺りで『失敗』するのは昏く地下へと続くこの迷宮が『深くなってきた』象徴であるのかもしれない。
「15階層の攻略がまた始まるんだろう?」
「イレギュラーズは簡単には諦めないもの! とってもとっても楽しみね!」
カストルとポルックスの楽し気な声音を聞きながらクレカは『境界図書館』に貯蔵される本の頁を捲る。
15階層の再度攻略の為に情報収集へ向かっていたペリカより「階層の様子が変わっている」と告げられたからだ。その何がおかしいか――彼女は『果ての迷宮』の探索に長く携わってきている。それも、イレギュラーズが攻略を完了した一層を『攻略失敗していた時期』からだ。その際は、一層の様子は変貌することなく、仲間たちの骸が転がって居た事も確認できた。
それが今更になって全く見たこのない場所に変化しているのだ。それが『可能性』を帯びて変貌したのか――それとも。だからこそ、クレカは書物を見つめ続ける。
「……イレギュラーズの力になれるかと思って、調べてる」
自身がこの世界に仲間入りを果たしたのだから。出来るだけ彼らの力になりたいと思うのは間違いではないはずだ。
しかし、それに関する情報は何処を見ても乗ってはいない。此処から先は未知数という事だろうか。
「『変化するならば攻略失敗すれば最初から』って憂いてるの?」
「ふふ、大丈夫よ。新鮮な気持ちでいけば新たな出会いだって得れるかもしれないわ。
そうでしょう? クレカ。私たちが『彼ら』に出会えたのも転機の一つだったんだもの」
これから先、永く、永く、穴を掘った先に何があるのかは分からない――
クレカは「うん」と小さく呟く。
分からないならばそこを踏破してみるしかない。ひょっとすれば、もう一度『敗北した階層』に再戦を挑める機会が巡ってくる可能性だってあるのだ。
変化し続けるというならばその変化にも適応し、乗り越えていくしかないだろう。
彼らは『可能性』だ。彼らの行動が果ての迷宮に良き影響を与えたことを願わずにはいられないのだ。
運命は流転する。迷宮が奥へ、奥へ――どこかへと続くように。輪は永遠に丸く形作る。
「ここは『果ての迷宮』――迷宮は、探索してこそ、なのかも」
クレカのその言葉にポルックスとカストルは頷き「彼らを信じよう」と頷いた。