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Battle of Nefellust

 ラサの政治形態は他国と些か異なる。
 力のある商人と有力傭兵団による連合体で形成されているそれは『王』が不在なのだ。
 例えば幻想でいえばフォルデルマン三世という頂点がいる。
 天義ならば法王フェネスト六世。鉄帝ならば皇帝ヴェルス。海洋ならばイザベラ女王……
 しかしラサにはいない。『赤犬』と呼ばれしディルクが実質的な指導者ではあるが、それは実質的という前置きが付き、なにより少なくとも『王』ではない。ラサはあくまでも『有力傭兵団長による多頭合議制』による国家――
 つまり単純に言うと。
「ほう。つまり私がその『ザントマン』だというのか――若造」
「下手な口は閉じときな老いぼれ。ネタはあがってんだよ」
 必要に応じた時に会議が開かれる国家、という訳である。
 そして今回。ディルクが招集した会議でも多くの商人、多くの傭兵が集まる場となっている。何のための会議なのか――もはや言うまでもないが『ザントマン』事件の事である。
 ディルクが吊るし上げているのはラサの中でも古参側に位置する商人……名をオラクル・ベルベーグルスと言う人物だ。彼の屋敷から多くの囚われていた幻想種が発見された事、彼は独自の売買ルートを持っている事……数多の要素からザントマンの疑い濃厚と糾弾している真っ最中な訳である。
「こんな事をやらかしておいて深緑との同盟がどうなるか分かってんのか? 向こうは柔らかく言って『お怒り』の状態だよ。場合によっちゃ同盟そのものが破棄されるかもしれねぇ流れだ――つまり長年の全てがな」
「だから?」
 しかしオラクルは糾弾の声にもなんのその。臆す様子は一切見られず……いやむしろ。
「深緑との同盟が決裂して――何が困るのだ?
 奴ら特有の技術か? 知識か? 物か? 人の流れか?」
 せせら笑うかの様に会議の場をゆっくりと眺めて。

「――そんなモノが欲しいなら取引などせず全て奪ってしまえば良いではないか」

 発言した。
 一瞬場が静寂する。その言の意味は誰もがすぐ分かり――しかし分かってはならない事なのだから。
 全て奪う。そう、つまりオラクルは『深緑への攻撃』を公的な場で示唆した訳で……
 直後、会議の場で怒号が吹き荒れる。
 先人が紡いだ努力を無駄にするつもりなのか――戦争を起こすつもりか――何様のつもりだ――
 しかし一方で顔を見合わせ、オラクルを糾弾しない者もいた。
 奴隷売買の多大な利益を『黄金の水』の如く飲み干した者――唾液を垂らす者――そういう者も場には存在していた、という事だ。あくまで利益を追い求めるのならば深緑への攻撃、そして制圧は実際に富を彼らに齎すだろう。その点は間違ってはいない故に。
 やがて会議の荒れ模様は最早誰にも止められぬ領域へと加速する。
 オラクルを責め立てる者。庇う者。様子を見る者……それぞれいたが。
「…………」
 ディルクは何も言わない。静かに、場の動向を眺めるのみで。
 彼の、らしくないあまりの静けさに不審を抱く者――もいたのだが。
「話にならんな。赤犬の若造……貴様からも話がないのなら、帰らせてもらおうか」
 やがてオラクルの方が一方的に場を退出し始めた。
 そして彼の思惑に賛同する者も一人、また一人と。
 そうして遂に退出する者が0になった時――怒りの矛先はディルクへと向いた。なぜ奴らをあのまま好きに行かせたのかと。何の手も打たぬのならこれは一体何のための会議だと。
 故に。
「まぁ落ち着けよお前ら。分からねぇか? 確かに奴らの事をあえて見逃した形だけどよ……」
 一息。

「これでようやく敵と味方がハッキリ分かったじゃねぇか」

 赤犬の口端が吊り上がり、同時。感情に身を任せていた者達はハッとする。
 ディルクが――少なくとも今までの『ザントマン』事件で彼が動き辛かったのは『誰が敵』なのかハッキリとしない所があったからだ。無暗に誰それを頼った結果、敵を内側に引き込むは愚。しかしオラクルへの糾弾、そして彼の一派の退場と共についに明暗が分かれた。
 故に!
「フィオナ、今出て行った奴が誰かは全部把握してあるな?」
「勿論っすよ! フィオナちゃんの手際を舐めないでほしいっすね!!
 事前に打ち合わせていた通り――ローレットのレオンにも依頼は打診済みっすよ!」
「よし。ハウザーとイルナスにも仕事だと伝えろ!
 炙り出した連中に容赦は要らねぇ……ここで奴らは纏めて叩き潰す!」

ラサで大規模なザントマン一派討伐が開始されました!!
ユリーカレポート『ザントマン事件』が公開されました!!


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