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蠢動する悪意


 ろうそくの炎がゆらりと揺れ、石畳をぼんやりと動きを見せる。
 靴がカツン、カツンと石に当たる音を立てていく。
 ぐんにゃりと炎が男の影を動かす。
 イオニアスは看守らしき兵士の目の前に立つと、杖で兵士の肩を叩く。
 その瞬間、驚いた様子で兵士が跳ね起きて、敬礼する。
「閣下!」
「――――ふん、アレの調子はどうだ」
「ハッ! ここ数日は元気に喚くのを止めております」
 敬礼した兵士にこくりと頷いて颯爽と風を切って歩く。
「そうか……」
 イオニアスはそのまま歩みを進め、一つの牢の前へ辿り着いた。
 そのまま杖で格子をガンガンと叩きつける。
 牢屋の奥、暗がりにて何かが動いた。
「ァ、兄上ぇぇ……」
 のどが潰れているのか、しわがれた声だ。
「――――キサマの息子な、アレ死んだぞ」
 イオニアスは淡々と告げた。
 向こう側からの反応は――ない。
 分かっていた。これにそんな物があろうはずもない。
「つまりだ、何が言いたいか分かってるか?」
「だ、出してくれるのですね! お願い、兄様!」
「あぁ、そうだ、その通りだ。出してやる。身軽にしてやろう」
 イオニアスは笑う。
 その笑みは冷徹な、しかし獰猛に――汚物を見るような視線で杖を女に向けた。
 キュイィ――と音が鳴る。直後――牢屋の奥で悲鳴がなった。
「看守」
 イオニアスが呟けば、兵士が布を一枚差し出して――それに火を当てたイオニアスがぽいと牢の奥へ投げ捨てる。
 ぼんやりと照らし出された牢屋の奥で、女が一人、怯えたようにへたり込んでいた。
 イオニアスはそれを見とめると、その顔に一層の憤怒をみなぎらせた。
「悍ましい――水ぼらしい姿になりおって。お前のような愚か者が
 我が妹ということが腹立たしいわ」
 格子を叩き折り、牢屋の内側に入ったイオニアスは、進み出て、女の頭を握り――直後にキィィィンと音が響く。
 目を見開いた女は、喚き散らしながらイオニアスの腕をつかみ――やがて両耳から血を垂らしながら崩れた。
「――――キサマよりは、まだ息子の方がマシだったな。
 ――――腹立たしきは、アレにはブラウベルクの血が流れていたことか」
 握っていた女の頭を握ったまま、苛立ちを露わに女を放り捨てる。ごしゃりと聞こえた音を無視して、イオニアスは踵を返した。
「おい、あれは処分しておけ」
 看守の変事を待つことなく、イオニアスはその場を立ち去り、重々しい扉を押し開いく。
「ふん、黄昏れが近いか……」
 沈み行きつつある陽光のオレンジを眺め、男は嗤う。
 燻ぶる怒りを内に押し留め続けていた。
 これは、そう。その日を待つために――。
 己が悲願のために、老子爵は嗤い続ける。

 イオニアス・フォン・オランジュベネの第二撃が発生しました。
 関連クエスト『Battle of Orangebene 』


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