#author("2020-01-20T18:19:24+09:00","","") *TOPログ [#j5964e58] #author("2020-10-31T17:21:14+09:00","","") **不幸の魔女の神託 [#j814a89d] ごうん、ごうん――音が聞こえる。 「儀式を始めよう!」 誰かの声だ。耳馴染みのない、不快な響きだった。 ――が其処に居る。辞めて、助けて、と叫んでる。それでも儀式は止まらなかった。 「『血潮の儀』」 ――血潮の儀? 聞き覚えのない言葉だった。けれど、それが『悪い事』である事は分かる。 ごうん、ごうんと音がする。''ソレ''は沢山の人の命を喰っていた。 まるで、私達が牛や豚を殺して喰う様に。何の感慨も何の罪悪だって感じる事無く食っていた。 燃料なんだ。私達が牛や豚を喰うのと一緒。命を喰らって動くんだ。 ……ああ、動き出した。ごうん、ごうん、音を立ててどんどんと動いている。 少し前に''イヴァンが連れて行ってくれた''スチールグラートの街だ。不幸の魔女である私に臆す事なく連れて行ってくれたのだ。 『ラウラ、見てみろ。あれがラド・バウだ』 ――その周りはこんなにも赤々と燃えて居なかったでしょう? 『ラウラ、果物でも食うか。……腹が減っている人間に施しを与えない程、腐ってはいない』 ――この場所はこんなに更地だったかしら。 『私』は走った。街が燃えている、真っ赤に視界が染まっていく。空までも赤く見える程に炎が揺れている。 『私』は足を縺れさせた。遠くで人が''ソレ''に轢かれていく。ぺしゃり、と道端の蟻のように潰されていく。 『私』は目を瞠った。崩れ去っていく建物さえ''ソレ''が踏み付けて全てを無に帰していく。子供の作ったつみきの様に呆気ない。 ――イヴァン、イヴァン、イヴァン、どこ!? イヴァン!? 視たんだ。 視た。 貴方は血塗れになって一人ぼっちで死んでしまうんだ。 厭だ、厭だ、厭だ――! ''ソレ''が近づいてくる。 悲鳴が聞こえる。耳を劈いて、痛い位に鼓膜を揺さぶった。 ――ねえ、魔女と呼ばれてもよかったの。たくさんの事を諦めたの。 ――だから、ねえ。 ――かみさま、 ――どうか、助けて。 ''ソレ''は獣の鼓動の様に規則正しく、そして、腹を空かせるかの様に只、苛立ちを感じさせて。 『私』は彼の名前を叫んだ。まだ、好きだと口にして居ない、もっと、傍に居たかった。意気地なしの私が泣いている。 ――けれど、その声はもう、彼には聞こえなかった。大口開けた''ソレ''は彼ごと街を呑み込んだ。