#author("2020-05-30T12:16:08+09:00","","")
*TOPログ [#i4653628]
#author("2020-07-01T11:21:23+09:00","","")

**廻る『歯車』 [#hb86d037]
「正直を言えば――現実的なご提案で安堵していますよ」
 一筋縄でゆかぬとはきっとこの男の事を指す――新田 寛治(p3p005073)の所作は全く彼らしく、皮肉とウィットを含んだ言い回しはこんな限界の鉄火場でも何一つ変わって居なかった。
「此方としては舳先に吊るされ海洋艦隊を抜けるための通行手形にされる程度は覚悟していましたので、ね。
 ドレイク船長、貴方は――そう。伝説の海賊の割に随分と人が好過ぎるようで」
 海賊旗艦ブラッド・オーシャンに取り残された六人のイレギュラーズ――【騎兵隊】に悩む時間は余り残されていなかった。
 絶体絶命の局面にドレイクが持ち掛けた『取引』は、驚くべきか『イレギュラーズの解放と一時休戦、リヴァイアサンとの共闘を条件に絶望の青踏破を第十三回(ドレイク)に譲る』というものだった。
「お人好し? そんな心算は無いねェ。
 吾輩は王国の行く末も諸君の運命も――そう、『どうでも良い』だけだ。
『我が生涯の目標を、約束を達成する為の最適解を選んだだけ』だよ。
 まぁ、余人には分からぬ問題もある。男の人生は何時も孤高だ。
 諸君が吾輩をどう評価しようとそれも『どうでも良い』話に過ぎないが」
 ドレイクの返しに寛治は肩を竦めた。
 目論見通り、イレギュラーズと海洋王国、鉄帝国の連合軍はアルバニアを叩いたが、現れたリヴァイアサンは完全にドレイクの計算の外だったらしい。海洋王国に並々ならぬ感情を抱くドレイクは彼等の大号令を認める心算は無かったようだったが、この期に及べば全ては優先順位の問題になるという事か。彼は事実上、『第二十二回(かれら)』の成就は認め、『第十三回(じぶん)』の達成を最優先に置いたらしい。
「正直海洋に思い入れはないからゴールテープは好き勝手。自由にしたら良いさ。
 唯、私から条件を言うなら、お主のお宝一つ欲しいな?
 海賊の信頼を得るってのはそういうものじゃろ?」
「そんな条件を出せる立場かよ、ごうつくばり」
「良いじゃ無いか。数十年? 数百年? ようやくの願いなんだろう?
 良いじゃ無いか。絶望の先の宝に比べたらちっぽけなものじゃないか」
「合理的な理由は無いな。そちらが戦勝気分なら、こちらもやり方を変えねばならないが」
 リアナル・マギサ・メーヴィン(p3p002906)の言葉をドレイクは軽く笑って一蹴する。リアナルはと言えば「ちぇ」と舌を出し、頭を掻いた。元よりそう本気で言ってはいなかった。吹っ掛ける分にはタダならば、仕掛けるだけ仕掛けておこうという内心は透けている。
「一安心だ。人質外交とか馬鹿なことやろうとしたら泥沼になるとこだった。
 残念なことがあるとすれば、拒否してたら僕らを殺して『逃げる』って所か。
 えー……こう、あの怪獣の出現も計算に入れてて……
 なんかすっごいお宝で巨人になって戦うとかあるだろ、お約束が。
 それとも実は持ってたりするんじゃあないかな? んー?
 つまり、ドレイクはあの竜を何とかする方法を思いついているとか」
 虫が良過ぎるアト・サイン(p3p001394)の言葉にドレイクは「生憎とアレは吾輩も知らなかった。計算違いだよ。そうでなければ諸君等とこんな話をするものか」と苦笑した。
「じゃ、正真正銘――正攻法でアレをどうにかする気だと」
「気は進まないが、一先ずはそうする他は無いだろう?
 先程も言ったが、吾輩は待ち過ぎたのだ。これより同じ時間、同じ長きを待ちたくはない」
 ドレイクの言葉は「承諾か?」という問いを含む。
 人の身で竜種を――ましてや『滅海竜』をどうにかする事等、夢物語だ。さりとて、それを言うならば冠位をこれだけ追い詰める事も、この海を征服してきた事も御伽噺に過ぎなかったのは変わらない。好悪どちらに転ぶか知らねども、やはり得意運命座標は特別だった。重く錆び付いた絶対さえ廻す『歯車』。軋みを立てて回り始めた運命は止まれと言っても止まれまい。
「……」
 イリス・アトラクトス(p3p000883)が何とも難しい表情をした一方で、イーリン・ジョーンズ(p3p000854)は実に饒舌だった。
「良いでしょう。正しく私の名を呼んだ以上、私は貴方に一人のローグとして敬意を表する。
 さぁ、実務の話よ。交渉は始め強く短く、妥協は柔軟にね。可及的速やかに纏めましょう。
 まず、此方の希望ね。大前提は、此方の六名を海洋艦隊旗艦に存命で送り届けること。送り届ける際、契約内容を貴方自身が伝えること。実際の戦いでは、リヴァイアサンとの決戦に違わずドレイク艦隊を派遣し、これに尽力すること」
「双方合意を取るのは大事だわ」と告げたイーリンにドレイクは首を振る。
「まず、大前提。諸君等を極力無事に帰そうというのは――これはいい。
 だが、二つ目は問題だ。君は簡単に言うが、そも吾輩はあの連中を別に許してはいないのだ。
 先の提案はあくまで妥協の産物であり――いやいや、もっと根本的な問題か。
 君は吾輩の条件を忘れたのかね? 『吾輩は諸君等に認めさせろ』と言ったのだ。
 吾輩に言えというのなら、そも諸君等は全く必要ないだろう?」
「やっぱりサメの餌か?」とバルタザールがにやついた。
「まぁ、そうね。重要なのは三つ目だわ。貴方をどれ位信じられるかの方」
 肩を竦めて自案の一部を引っ込めたイーリンは僅かに皮肉めいていた。
 そう、問題はドレイクの出方である。海洋王国に恨みを持つ彼は究極的に言えばその全滅を願っている。自身が助力するという『希望』を餌に海洋王国軍をリヴァイアサンにぶつけ、己は逃れる――放免したイレギュラーズも一緒に沈めば結末は一緒。これまでの動きを見ればその位の謀を巡らせてもおかしくはない。『ドレイクの持ち掛けた取引は確かにイレギュラーズに好都合だったが、それは彼の言葉を全て信じられた場合に限ると言えるだろう』。
「此方から何か要求できるような状況にない……分かってる、分かっていますけど……」
 薄い唇をキュッと引き結び、凛とドレイクを見たウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)が助く。
(それでも、ここは意地の張り所。一歩も退けない。
 ここは、この場所は。イーリンは必ず。『私が守る』!)
 ドレイクにせよ、バルタザールにせよ敵は敵だ。
 風向きは少し変わったが、唯々諾々と相手の言い分を呑むような関係ではない。『お互いに』。
 故にウィズィもまた、覚悟を張るのだ。『誰あろう己に、己の物語に恥ずかしくないように』。
「取引する以上、我々は対等であるべきです。
 だから貴方も誓え。私が胸を張ってここに誓うのと同じように――
 ドレイク。この取引……約束の順守を、大願の成就を誓えますか。
 この海を越える海賊として、『第十三回』の名代として。かのエリザベス妃にも!」
 凛と響いたウィズィの言葉にドレイクは「いい加減、弱るぜ」と何とも言えない苦笑を浮かべた。
「いい加減にその名前を口にしたなら三回は刻んでやる所だが、君はまぁいいだろう。お嬢さん。
 後は諸君が信じるかどうかだが、少なくとも吾輩は誓ってやろう。
 諸君等が違わぬならば此方は此方で尽力する。
 生憎と証文は出せない。直接交渉も嫌だし――何より時間がない。
 どうにもこうにも『唯、信じてもらう』他はなさそうだがね!」
「……では、これは? 六名ではなくまず、一、二名を解放し、海洋王国側へのメッセンジャーとする。
 要するにドレイク艦隊は敵ではない事を告げ、状況を共有します。
 その上で残る者はこのブラッド・オーシャンとも連携してリヴァイアサンと戦う。
 貴方は海洋王国軍は嫌いでも、私達はそう嫌っていないように見受けられますからね」
 寛治の言葉は妥結点を探り、合理性を追求するものだ。
 ブラッド・オーシャンで共に戦えばドレイクがおかしな動きを見せればすぐに分かるし、牽制にもなるという寸法だ。何より彼等の戦力は大きく、連携を取れば有効性が高いのは言うまでもない。
 大きなデメリットは自身等の安全が結局は担保されない事位のものだろう
「……ま、それ位は良いか。但し一点。くれぐれも守りたまえよ。
『本艦の上では吾輩(キャプテン)が常に絶対だ』。それは部外者の諸君も同じである事はお忘れなく!」
 概ね話が纏まりかけたそんな時、イリスがポツリと口を開いた。
「多数決に口を挟む心算は無い、そういう前提で聞いてね。
 正直を言えば、私の答えは『ノー』よ。偉大なるドレイク。
 確かにこの状況で生存が確保できて、貴方達の助力が得られるのは交換条件を鑑みても魅力的ではある。
 でも、『私』は頷けない。『それ』を諦めたくない。
 だから、ここは逃げてもらって海を越える事を目指してもらっていいと思ってた。貴方を、竜と冠位魔種を倒した『ずっと未来の海洋王国』が追いかけるのも、悪い選択肢ではないとは思ってた。
 貴方はもう疲れた、もう待てないと言ったけど――」

 ――この戦いがどうなっても、貴方はこの海に君臨し続けて欲しい。
   嫌になる位に、うんざりする位に分厚い壁として、王国の行く手を阻むのがドレイクなのだから。

 海洋の民たるイリスにとって『ドレイク』はやはり特別だったのか。
 彼から覗いたほんの少しの弱音にイリスは抗議めいるかのようにそう言った。
「……本当に難儀な性分だ。実に困った連中だねェ――」
 ドレイクは僅かに笑みを零し、一瞬だけ天を仰ぐ。
 そんな時間はしかし、極一瞬の出来事だった。
「――ああ、兎に角。時間が無い。
 あの化け物をどう仕留めるかは吾輩も知らないが、生きているなら倒して倒せぬ事も無いだろう。
 一つしっかり握手等して、信頼を確かめたい所だが、見ての通り吾輩には片手がない。
 そこは略式と行く事として、では――
 我が同盟者達よ。この戦いに勝利し、先の祝杯を夢見る事としようじゃないか!」
 芝居がかって朗々と――ドレイクが声を張ればそこはまるで彼の舞台のようだった。
 絶大なカリスマが動き出す。幾多のドラマを、幾多の思惑を呑み込んで――重い緞帳が上がっていく。
 一方、その頃。[[この決戦を左右する『もう一つ』の大いなる鍵は脈動する。>https://rev1.reversion.jp/page/suiryuusama]]
 どくん、どくんと。暗く冷たい廃滅の海の底で静かなを光を放ち始めていた――

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''※【騎兵隊】が解放され、六名のイレギュラーズの『不明』が解除されました。''
 ''彼等の活躍により『ドレイク勢力』が共闘に加わる事が確認されました!''
''※スペシャルレイド<絶海のアポカリプス>が発生しています!''


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