#author("2020-10-31T21:56:19+09:00","","") *[[TOPログ]] [#o0920bec] #author("2021-03-21T18:23:52+09:00","","") **忘れられし墓標 [#f46f72a9] 幻想王都メフ・メフィートの北。小高い丘で少女は花を携えていた。 背格好は小さいが長い耳――幻想種の彼女にとって、その呼称はふさわしくないかもしれないが。 「遂に、動きだそうとしているわさ」 彼女の他には誰もなく。けれど語りかけるように彼女は言葉を紡いだ。 「あの子達ならきっと大丈夫……だから安心してねい」 思えば長く――実に遠くまできたものだった。 遠くて近いあの場所で避けられなかった永久の別れ、仕方ない事とは言え、必ず割り切れるものでもない。 何時かの夜。夢を語って飲み明かした冒険者達。 ペリカの後ばかりを追いかけていた気弱な後輩。 柄にもなく――夢中にさせられた、あのひと。 今はもう誰も居なく、その数々が。ちくり、ちくりと彼女の胸を苛んでいる。 そこは知る人も少ない小さな墓所。 彼女の眼前にあるのは『果ての迷宮』の踏破にしくじり、命を落とした冒険者達の墓標である。 知る限り皆、素晴らしい腕前だった。 けれど足りなかったのは、一体何だったのだろう。 勇気だろうか。皆勇敢だった筈だ。 情熱は――今も私が、残された私が遠い途を追いかけている。 時間だろうか? きっとどれも正しいのだろうけど―― ペリカは花を添え、目を閉じ、しばし祈った。 あの時、――なら、もっと。どうして―― かつては自責に囚われもした。けれど今は違う。 老成した意地と言えばそれまでだが、私はどうしてもこれをやり遂げる。 それが救いになるだろう。それこそ報いになるだろう。 今も尚、魂を遠く引く――滲んだ在りし日の時間に対する手向けに違いないのだ。 「行ってきますねい」 そう告げるとペリカ・ロジィーアンは踵を返す。 視線は力強く。朗らかに。歩き出すその先に見えるのは、遠く白ずんだ王城。 今日はそこへ、待望のイレギュラーズ達が来てくれる筈だから。 ※イレギュラーズに対して『果ての迷宮』の攻略依頼が出されました! ローレットに急行して下さい!