#author("2019-12-02T12:51:17+09:00","","")
*TOPログ [#j5964e58]
#author("2020-10-31T16:43:58+09:00","","")

**昏海の予知 [#s51ab2bb]
 ネオフロンティア海洋王国はまさに熱狂状態。
 人々は大いなる海に思いを馳せ、そこに挑む勇者達を口々に讃えるばかり――
 海洋王国を賑わせた王国大号令を受け、自領の近海警備へと特異運命座標を向かわせる命を受けたクレマァダ=コン=モスカは、しかし国内の喧騒とは対照的な面持ちで王の御前に立って居た。
 その渋面はとても明るいばかりの国内様相を反映したものとは言い難い。
 どちらかと言えば何とも言えない――言葉に出来ない『不安』のようなものを覗かせるそれである。
「とは言うても、のう……」
 これを受けるイザベラの表情も少しの困り気を帯びていた。
「クレマァダ、お主の『心配性』は知っておるが……
 そうじゃ、今や特異運命座標はかの大罪をも退ける強豪であると聞く。
 此れから妾は彼らに私掠許可を出そうと考えておる。国軍協力者として後々にモスカの祭祀を受け、海へと向かう事となる勇士達じゃ。今、それだけ心配しておればその時になれば胃に穴が開いてしまうぞ?」
「心配などしておらんのです。我は祝福を与えた者へは相応の援助を約束している。
 けれど、彼らは『海洋の民』ではありませんでしょう。
 力を持つが故に、脅威に向かう――必然とも言えましょうな。
 しかし、我は海洋の民が奇跡に頼り切りになるのには些かの不安を感じずにはいられませんが」
 複雑な顔をするクレマァダ。彼女の心配性には慣れた調子の女王イザベラは肩を竦めて笑うだけだ。
 海洋王国としては特異運命座標に私掠許可を出し、謂わば国軍協力者として大号令の本番に赴かせたいと考えていた。
 大号令を果たすのは『海洋国民の悲願』だ。特異運命座標もそれに近しいポジションを得ている事が望ましい。そうなれば、コン=モスカの祭司長は海へ赴く者たちに加護を与えることとなるだろう。
 モスカの加護――絶望の青に隣接するコン=モスカ領。その地は緩やかな独自の宗教観を持ち、絶望の青を神聖なる神の座する場であると認識している。その神聖なる地に踏み入れる冒険者たちコン=モスカでは祭祀を行い、加護を与える事で深き海での安全を願い相応の援助をする。
 それ故に、彼女は惧れの海の脅威を知り、聖域に踏み込む者を拒否することもない。全ては神が為なのだ――『彼女個人の思想』とは別として。
「――けれど、我とて。『それが必要である事』位は重に理解しております」
「うむ。そうであろうな。その分別が出来るからこそのそなたよ。
 それで? 何も想いを吐露する為だけに人払いをした訳ではなかろう?
 妾も此度の大号令で忙しい。本題を聞かせてくれるかえ?」
 女王の穏やかな声音は一転し、硬質な響きを感じさせる。
 ほんの僅かに逡巡したクレマァダは唇を震わせ、女王の伺う様に視線を送った。
「『[[夢を見た>https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/2301]]』のじゃ……」
「夢を」
「――昏き夢を」
 クレマァダは何かを思い出したように頭を抱えた。悲壮な程に鳴く風に全てを飲み喰らう暴食の海。神の怒りに触れたかの如き、地平の栓が抜けたように濁流が叩きつけられる惧れの形。
 夢の内容を淡々と口にしたクレマァダへとイザベラは眉を寄せた。
 彼女は普通の少女ではなく、モスカの祭司長だ。絶望の青により深い縁を持ち、冒険者へと加護を与える神を祀る者。その立場である彼女が海に惧れを抱く事は到底あり得ぬことであった。
 しかし、そんな立場だからこそ――『祭祀』を司る者だからこそ。
 時に彼女は世界の断片に触れてしまう。
 まだ起きていない事、先に起きる事、或いは起きないかも知れない事。
 未来観測それ自体は[[シュペル・M・ウィリーの嘲笑うナンセンス>https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/1247]]だが、ざんげの信託にせよ、このクレマァダの夢にせよ、理外の事象を論理で突き崩すのは難しい。
 唯、厳然たる事実だけが積み上がっているのだ。『モスカは当てる』。それだけの話なのだから。
「……………一応、尋ねるが。その夢は、『本物』かえ?」
「本物でなければ女王陛下に直訴など」
 これまでは気楽な調子だったイザベラだが、この言葉には考え込む様な仕草を見せる。
 とは言え期が熟しているのは確かなのだ。国内国外情勢は安定し、国力は十分に高まった。これほどまでに穏やかな海、そして、二十二年ぶりにもなる新天地(ネオフロンティア)を求める国民たちの期待を否定することなどできない。この期に及んでストップを掛けるのは、政治的な危険すら孕み――考えたくはない位に国内情勢を好転させる事等有り得ないのだから。
「一応、考慮しておく。じゃが、この話はあまり外には」
「分かっております。我とてこれが『唯の夢』である事を期待しておる一人なのですから」
 双方に苦笑をかわし、イザベラは場を辞するクレマァダの背中を見送る。
 海の神の業なのか――此度の大号令も嵐が匂う。
 いや、やはり嵐なくしては冒険足り得ぬか、とイザベラは深い溜息を吐き出した。

 コン=モスカの祭司長の夢。それを、海洋王国ではモスカの予知と呼んでいる――

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''※海洋王国私掠許可クエストが開始しました!''
 ''ローレットに『海洋王国国家事業』への参加が要請されています!''
 ''最深の状況はこちらをご確認下さい!''


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