#author("2020-10-31T21:56:07+09:00","","")
*[[TOPログ]] [#u400d337]
#author("2021-03-21T18:23:38+09:00","","")

**暁と黄昏の境界線 [#yd0da26c]
『北辰の道標』伏見 行人(p3p000858)が敵兵を斬り伏せ、縛り上げた時だった。
「イレギュラーズか……いい気になるなよ!? 我が主はじき、準備を整える!
 震えて待つがいい!」
 その兵士は震える声でそう男に視線をあげる。
 魔種イオニアス・フォン・オランジュベネの影響が低下したという話は聞いていた。
 そして、その影響下を僅かに脱した兵士が、イレギュラーズへ少しずつ情報を漏らしていることも、話に聞き及びつつある。
「準備だって? それは一体なんのだい?」
 風に煽られる外套を少しばかり抑えて見下ろせば、敵兵は鼻で笑う。
「決まっておろう! あの方の――」
 挑発に乗って出しかけた声を、ハッと我に返った兵士が閉ざす。

 颯爽と走り抜けたアルラトゥが境界線の向こう側へと消えていく。
『小さな騎兵』リトル・リリー(p3p000955)はその様子を見据えながらほっと一つ安堵に息を漏らす。
 幾数かの戦いを終えて、赤を基調とし黒の差し色を加えたフリルドレスをゆらりと風になびかせる。
 そんな彼女は、不意に足音を聞いた。ザッ、ザッ、ザッ――均等に歩むそれは、ばらつきつつも、どこかへ向けて静かに進んでいく、そんな音。
「よいしょ……」
 レブンに跨って、少しばかり顔を出して音の鳴る方を見る。
「……あれって」
 ぽつり、呟いた。普段であれば気付いてもらいたいと思って近寄る彼女も、それに近づこうと思わない。
 ――――だってあれば、今日まで、このオランジュベネで戦ってきた者達とは違う。
 あれは、そう。文字通り本物の軍勢だ。
 慌てて隠れた少女のことなど気づくよしもなく、軍勢はそのまま真っすぐに進んでいく。

『死を呼ぶドクター』レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)がそれを見つけることが出来たのは半ば偶然であると言っていい。
 一つの町、いたちごっこのように現れた敵を炎で焼き払った後、ブラウベルク領へと帰還する旅路に置いてそれを見た。
「――――聞け! 誰がお前達をこの町に閉じ込めた! 流通と人の行き来を制限したのは誰だ!
 我が主は――憤っておられる。我らは、あの女を討ち果たす! 聞け!!
 おのが身の内にある、僅かなりし怒りに耳を傾けよ!」
 それは、一人の男の演説だった。そもそも、その男が言う、我らが主とやらのせいで制限された筈だった。
(……だが、何だァ? こいつは……)
 男の演説に、興味を引かれている民衆が、少なからずいる。
 その者達は一斉に男に対して叫ぶ。
 大したことを言っているわけではなさそうなのに、まるで熱に浮かされたような熱狂ぶりだ。
(……原罪の呼び声か)
 思い当たる節はそれのみ。防ぐべきかと動こうとした足を止める。
 人々の塊は、確実に増え続けていた。これは、自分だけでは対処できまい。
 フードを目深にかぶり、影へ溶けるように身を翻した。

「どっせぇぇぇい!! ……ふぅ」
『ハッピーエンドを紡ぐ女』ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)はたった今斬り下ろした魔物の方を眺めて愛用のテーブルナイフをくるりと回す。
「……あれ?」
 毎度であれば雄叫びを挙げてこちらに突っ込んできて、最期まで戦う魔物のはず。
 であるというのに、今回のそいつは動きが違った。
 ウィズィがもう一度ナイフを構えた頃には、そいつは尻尾巻いて走り去っていったのだ。
 見上げれば、怪鳥の姿もない。
 さすがに不自然が過ぎて、ウィズィが走り出すと――直ぐにソレは姿を見せた。
「……これは私一人だと手に負えないですね!」
 一人の男を取り巻くように集まる複数の魔物。
 ただそれだけなら、これまでも見たが、今回は連携がしっかりしつつある。
 気づかれぬようにウィズィはその場を走り去ると、追っ手を巻くように駆け抜けた。

 ――――――――
 ――――――
 ――――
 ――

 幻想南部のブラウベルク城。その内部にてテレーゼ・フォン・ブラウベルク(p3n000028)は険しい表情を浮かべていた。
「ご報告を頂き、ありがとうございます」
『聖剣使い』ハロルド(p3p004465)と『有色透明』透垣 政宗(p3p000156)よりの情報を受け取ったテレーゼの表情は思ったよりも揺るがない。
「俺達以外にも複数来てるんだな?」
「……お二人を含め、複数の方に報告いただきました。
 オランジュベネ領の一帯において、各地で小規模の軍勢が発見され、数を増やし続けています」
「……すぐにでも皆様と、それから各地へ援軍の要請をさせていただきました。
 じき、情報屋の皆様から確実なお話がくるでしょう」
 テレーゼは深いため息を吐いた。疲労を吐き出すように重い吐息。
 本来ならば人前で出さないようであろうモノさえ出してしまう程度には参っているらしい。
「そういえば、これって地図だよね?」
「ええ。それは私と伯父――ブラウベルクとオランジュベネにとって、始まりの地であり、没落の地たる古城のパンフレットです」
「で……各地の軍勢は、この町に向かってるってことだろう?」
「ええ、そうです。ここが集結地点なのでしょう。
 そして――集結地点であるということは、伯父はここにいるはずでもあります」
 それゆえに――そう、少女は一つ言葉を残す。
「私、テレーゼ・フォン・ブラウベルクより皆様への依頼は――戦力集中のただ中にあるこの町へ先に潜入し、伯父を打ち取っていただくこと、と致します」

 無謀、或いは無茶と言っていい。
 それでも、テレーゼは、静かに次の言葉を紡ぐ。
「皆様が失敗すれば、伯父の軍勢は確実にブラウベルク領を征圧し、事と次第によっては王都さえ狙うでしょう。
 もしも伯父が――イオニアスが勢力圏を築くなんてことになれば、『滅びのアーク』とやらの増加も想像するには難くないかと」
 淡々と告げられた言葉の向こう、くすんだ蒼の空が見えた。

イオニアスとの決戦が開始されました!
クエスト『Battle of Orangebene』が終了しました。


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