#author("2019-08-21T23:01:38+09:00","","") *TOPログ [#v0c6954f] #author("2020-10-31T15:45:17+09:00","","") **枢機卿の激昂 [#b607ee22] ● 「猊下、ご報告が」 部下を部屋の入り口に立たせたまま、アストリア枢機卿はワインボトルを眺めていた。 「猊下、何卒」 「忙しい、後にせよ」 返答は間髪入れず。 「それが……火急の」 「なんじゃその束は、申してみ」 声のトーンを一段下げ、アストリアは椅子へと腰掛ける。 ワゴンに載せられた羊皮紙は、正に山のようであった。 「聖獣様と銃士がイレギュラーズに襲撃を受けている模様」 返答はない。続きを促しているのであろう。 ――アストリアは押し黙り、視線だけを突き刺す。 銃士は咳払いすると、報告書を読み上げた。 「……脚部の特徴からデイジー・リトルリトル・クラークと思われます。 また舞音・どらなる聖人様が……」 「聖人……じゃと!?」 アストリアの声が怒気を孕む。 「い、いえ。おそらくは何か報告の間違いであるかと。またこちらの報告書ではその戦いぶりからシルヴィア・テスタメントであると予測されており」 「なにがテスタメントじゃ! 罰当たりな! まだ有るのか!」 銃士が額に汗をにじませる。 「調査に手間取った数名。こちらはおそらく君影・姫百合、白 薔薇、天狼 カナタの三名であると思われ……」 銃士が顔をあげると、アストリアが立ち上がる。 「時に汝、その足はどうした」 「何でも御座いません!」 「遠慮をするでない、近う寄れ。 正義に邁進した故のことであろう。妾とて聖職の端くれ。癒やしの奇跡程度は施せよう」 「勿体なきお言葉」 「ここには汝と妾以外におらん……妾の特別な時間を進ぜるのもやぶさかではないが」 アストリアは触れるほどの距離に近づき、銃士を下から見上げた。 「げ、猊下!?」 「だめかの?」 小首を傾げる。 「さ、足を見せ」 観念した銃士は天井を仰ぎ、生唾を飲み込んだ。 ――ッ!!! 鈍い音が響き、銃士の身体がくの字に折れ曲がる。 杖先が突いたのは向こう脛であった。 「ククッ、ハハハハ!!」 銃士は唇を戦慄かせながらも横一文字に引き絞る。 「なんじゃクワイアも出来んのか。汝は何が出来るのじゃ」 あざ笑うアストリアに銃士は戦慄くが。彼女は構わず手拍子を始める。 「冗談じゃ。笑え!」 「ハ、ハ、ハハハハハ!!」 やけくそな声が響いたが―――― 「ふざけるでないわ!」 アストリアは杖を突如振り上げ、銃士の肩を強かに打つ。 「もうよい、寄こせ!」 羊皮紙の束、束、束。全て合わせれば少なくとも千は数えよう。 「なにが正体が知れぬ女じゃと!? この彼岸会 無量なる者と明らかに同一ではないか! たわけめが!」 殴打。 「エストレーリャ=セルバ……なにがエストレーリャじゃ、不遜な名をしよって!」 殴打。 「それからなんじゃ! これは! 何枚ある! 同じ、同じ、これも同じではないか!!」 殴打。殴打。乱打。 「コレット・ロンバルドは幻想遊楽伯爵のアトリエに多数の目撃情報とは、何じゃ。巫山戯よって!」 部屋は既に滅茶苦茶な有り様となっていた。 「コレット、エストレーリャ、無量……か!」 暴れに暴れたアストリアは肩で息をしながら吐き捨てる。 「先の小僧共も然り! 妾の邪魔をしよって! おい、何をしておる!!」 尻を蹴り上げる。 「草の根を分けてでも探し出せ!!!」 床に投げ捨てられた薬を拾い、銃士は足を引きずりながら駆けだした。 ※『期間限定クエスト』が発生しています。 ※アストリア枢機卿の部隊に甚大な被害が発生しているようです。