#author("2019-12-02T12:31:06+09:00","","")
*TOPログ [#l1a8f420]
#author("2020-10-31T16:42:36+09:00","","")

**海洋王国大号令 [#a02720ad]
 ネオフロンティア海洋王国――
 それはこの混沌において唯一諸島部に勢力を構え、漁業や海運、貿易で身を立てる国家である。
 例外的存在と呼べる探求都市国家アデプト、つまり練達を除けば彼等の支配地域は最少であり、その国力はお世辞にも優れているとは呼べない。それでも彼等が一つの国家として認知され、今日にいたるまで勢力を維持してきたのは、シーレーンを強く防備する事の出来る海軍力と、同時に大国間の小競り合いを上手く泳ぐ事が出来た歴代各々のバランス感覚のおかげである。
 謂わば『潜在的脅威』と考えられる外圧達はこの暫くは特に自分の事に一生懸命だったという事だ。
 だが、それはあくまで相手の都合に他ならない。
「――つまり、何時までもそれ頼りでは困る、という事よの。
 現状維持に保証はなく、古豪の幻想や天義も復活の目を見せておる昨今じゃ。
 生き馬の目を抜く政治というものは水のようなものじゃからの。何にだって姿を変える。明日にでも」
「繰り返しの結論ですがね。
 もうこれで何度目か――以前は確か父の代でしたから。二十年振り位でしょうか?」
 海洋王国首都リッツ・パーク。その中心部に位置する王宮には王国の名だたる有力者達が集まっていた。
 当然ながら最初に発言したのは元女王イザベラ・パニ・アイス。それに応じたのが王国のNo.2と目されるソルベ・ジェラート・コンテュールである。平素は反目しあう二人もそれを見せない辺り、今日のこの場が如何に大事なものかは知れていた。
「前回の王国大号令は正確には二十二年と七カ月、オマケに四日ですわね。
 私、産まれておりませんけれど。お兄様ったら今日も素敵に鳥頭」
「カヌレ!!!」
 横合いから嘴を挟んだ妹にソルベは実に分かり易い反応をした。
 慌てて「……ン、んんっ!」とわざとらしい咳払いをしたソルベに周囲から笑みが零れた。
 馬鹿にしているというよりは緊張の中にも変わらない日常を見出したから、といった方が正しい。
 海洋王国の気風は得てしてこんなものである。
「こうしてこの場に集められたのですものね。
 号令自体の発布はもう決められた事なのでしょう?」
「んんっ、それはこの場をもって決議される、という事だ。バニーユ夫人」
「それはそれは失敬をば。
 嗚呼、でも! やっとあの広い海に出ようというのですね。ああ、とても素敵!
 二十二年と七カ月、それから四日振りなんて! わたし、心躍る冒険の話が好きなんです」
 あくまで形式上は『まだ決定していない事』である。
 結論を急いだバニーユ男爵夫人――夫を早くに亡くした寡婦であるが、ソルベ派の実力者である――にソルベは形ばかりの訂正を入れてみせた。しかし、夫人側はと言えばソルベの話を半ば聞き流すようにその瞳を輝かせている。
「まぁったく、童女みたいな顔をして。とんだお貴族様もいらっしゃったものですわぁ。
 ……でも、陛下? まさか期待させるだけさせておいて――
 持ち上げて落とすなんて事、いたしませんわよね?
 わたしの戦列艦隊(アルマデウス)はとっくの昔に準備を進めているのですから!」
 苦笑したイザベラに水を向けたのは彼女に忠誠を誓う海賊提督のトルタ・デ・アセイテである。
『アセイテのアプサラス』と称される彼女は海戦に滅法強い王国の中でも名の知れた船乗りである。元々は私掠許可を得た一海賊に過ぎなかったがその絶大な戦果から一代貴族に取り立てられ、無敵艦隊アルマデウスの指揮権を得るまでになったのだから筋金入りだ。
 周囲の貴族達も有力者達のやり取りに時に笑みをこぼし、時に頷くばかりである。
 その姿を見れば分かる通り、王宮の機運はまさに一つに纏まっていた。高められていた。
 海洋王国大号令とは即ち、国家事業の開始を意味する大いなる銅鑼である。
 諸島の小国として外圧に晒されてきた彼等が求めるのは大いなる大地であり、未知への可能性であった。
 外洋に横たわる壁――『絶望の青』を越え、その先にある何かを得んとするのは彼等の悲願であり、野望であり、まさに国是だった。幻想(レガド・イルシオン)が勇者王の遺志を継ぐのと同じように、彼等は連綿とそれを夢見てきた。
「――時は満ちた」
 荘厳たるイザベラの言葉に場がシン、と静まり返る。
「海洋王国の国力はまさに今高まり、史上最高を更新している。
 加えて、神の加護を得し、特異運命座標、そしてローレット。彼等の存在が我等の夢を後押しする。
 妾は今、海洋王国女王の名の下にこの国に命じよう。
 本日、現時刻を以てネオフロンティア海洋王国大号令を発布する!
 遥か外洋を征服せよ。絶望の青を捻じ伏せ、我が国の、国民の誇りをそこに刻まん――」
 朗々と宣言は響き渡り、一瞬の後。
 歓喜と気合の喝采が、歓声が王宮を揺らした。
 海洋王国の国家事業は何度跳ね返されても挫けぬ彼等の悲願である。
 海に生き、海に散った英霊達も、今を生きる国民も、為政者達も。
 未だ誰一人、見果てぬ夢を諦めた者はいないのだから。

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''※ネオフロンティア海洋王国で『国家事業』の大号令が発布されたようです!''


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