#author("2020-05-30T12:14:07+09:00","","")
*TOPログ [#b3d4c7d6]
#author("2020-07-01T11:21:48+09:00","","")

**渦潮姫、がんばる。 [#qf74ff45]
 傷付いた全身に冷たい水が絡み付く。
 死そのものを体現したかのような海で、絶望のスープに飲み込まれる経験は――生涯決してしたくないものだったに違いない。
 ……だめだ、と口に出そうとして泡だけが噴き出した。
 霞む視界の中、彼女が、リトル・リリー(p3p000955)が、カイト・シャルラハ(p3p000684)の大事な人が昏い水底に堕ちて逝く。
(だめだ……このままじゃ、二人共……)
 死ぬ。それは避けられない結末だ。
 頭の中をぐるぐると回る絶望に、カイトの体はもう抗ってはくれない。唯、殆ど力の入らない指先で握りしめた御伽噺の小さな鱗が二度目の奇跡にどくんと震えた。

&br;
 ……
 ……………
 ……………………それは、奇妙な感覚だった。
 まるでぬるま湯に浸かるかのように、時間さえ引き延ばされたかのような感覚だ。
 絶望の海に沈む自身に、彼女には殆ど時間が無かった筈なのに。
 気付けばカイトの体を蝕む苦痛さえ、現実感を失ってしまっていた。
「俺は……死んだのか……?」
 周囲には光が満ちていた。少なくとも暗い海の底ではない。
 様々な書物が『天国の在り方』を教えている。
 カイトは取り分け信仰に熱心な方ではなかったが、もし『これ』がそうなのだとしたら、神とやらはそれなりに慈悲深い人物であると分かる。後はリリーさえ居てくれたなら、幾分かマシな場所とさえ思えそうだった。
「ここは、何処だ。俺はどうしたら――」

 ――ここは海の底。ここは『絶望の青』の中。
   でも、そのままじゃ大変な事になると思ったから……私が助けたの。

「……っ!?」
 カイトの独白に返った声は、何処かおっとりとした女性のものだった。
 言葉の意味は知れないが、額面通りに受け取るならば自分は助けられたらしい。
 ならば、リリーは――

 ――小さな女の子も大丈夫。無傷ではないけれど、多分無事だと思う――

 カイトの目の前をキラキラとした何かが横切り、ふわりとリリーの――小さな体が慌てて羽を差し出した彼の元へすっぽりと収まった。
「……ん、むぅ……」
 流石に夢見は悪いのかリリーは眉根を顰めていたが息が確かなのは間違いない。
「アンタは一体――それからここは」
 繰り返しの間抜けな質問だがカイトは構わなかった。
 自分達は確かにフェデリア海域で冠位アルバニアと対決していた筈だ。
 有効な打撃は与えたが、アルバニアの仕掛けたアクアパレス崩壊に巻き込まれた自分達は――

 ――呼んだのは貴方だよ。

「は……?」

 ――貴方と貴方の奇跡と『それ』が、私をここに呼び出した。
   知らないかな? 知らないかも。私は『水竜』。
   皆が忘れた、もう忘れてしまった近海の竜。海の冒険を加護する存在(もの)。
   パンドラの奇跡が私に届いた。『それ』を通じて私をこの場に繋げたのよ。

 カイトはこの期に及び、漸く。
『声』が自らの身に着けた一枚の『鱗』から響いている事に気が付いた。
「まさか……」
 水竜の鱗――『眉唾』な船乗りのお守りは神代の竜のものであるという。
 それは竜種の姫であり、豊漁と海の安全を守る心優しき守護神であるという。カイトが命を賭してでもリリーを守りたいと思った時、通じたパンドラの奇跡は『本来有り得ないチャンネル同士を繋いでいた。近海の主が、遠洋の暴君の領域に現れたのだ』。

 ――『滅海竜』リヴァイアサンは強大過ぎる。
    私が知るよりずっと、ずっと弱くなってはいるけれど……
    この場に用意できる力で神を討つ事は出来ないわ。
    でも、でもね。それは手段がないという事ではないの。
    私の権能――『渦潮姫』は流れを操る力がある。
    水の流れだけじゃなく、風や場の流れ、時には運命にさえ触れる事もある。

「……つまり……?」

 ――それが同種のリヴァイアサンのそれならより触りやすい。
   皆の運命に、彼の運命に少しだけ干渉して権能『神威(海)』を弱められる。
   もしリヴァイアサンを封じられる宿命があるとするならば、貴方達次第。
   貴方達が死力を尽くしてくれたなら、リヴァイアサンをもっと弱めてくれたなら。
   私の揺り篭で彼を眠らせる事が出来るかも知れない。
   私と一緒に彼は眠りについてくれるかも知れない――

 水竜の語る詳細は『分からぬ』が結論は簡単だ。
 恐らくイレギュラーズは万が一、億が一の『勝機』を得たのだ。
 ……カイトの手にした『水竜の鱗』は本物だった。
 恐らくは数限りない偽の中のたった一枚の本物を彼は持っていた。
 死の運命に抗う彼が天に奇跡を届けた時――『彼女』は助けを求める声を聴いたのだ。
「でも、どうして……どうしてこんなに助けてくれるんだ?」
 気付けばカイトとリリーを覆う光は消えていた。
 彼等は大きな、大きな――リヴァイアサンと比べれば些細なものだが――背中の上に居た。二人を運ぶ背中には特別な力があるのか、海中だが呼吸に問題は無い。

 ――簡単よ。

 少し、はにかむように水竜は言う。

 ――あなたが、信じてくれていたから。

 大きな音を立てて海面が割れた。
 暴君(リヴァイアサン)の暴威に揺れる海に、『水竜様』が姿を現す――!

&br;
''※カイトとリリーの行方不明が解除されました!''
 ''カイトのPPP(よびかけ)により水竜様が現れました。''
 ''権能『渦潮姫』により権能『神威(海)』が阻害されているようです……!''


トップ   編集 差分 バックアップ 添付 複製 名前変更 リロード   新規 一覧 検索 最終更新   ヘルプ   最終更新のRSS
This site is protected by reCAPTCHA and the Google Privacy Policy and Terms of Service apply.