#author("2020-10-31T21:53:02+09:00","","") *[[TOPログ]] [#oe4da75c] #author("2021-03-21T18:30:04+09:00","","") **蠢動する悪意 [#mf666cc2] ● ろうそくの炎がゆらりと揺れ、石畳をぼんやりと動きを見せる。 靴がカツン、カツンと石に当たる音を立てていく。 ぐんにゃりと炎が男の影を動かす。 イオニアスは看守らしき兵士の目の前に立つと、杖で兵士の肩を叩く。 その瞬間、驚いた様子で兵士が跳ね起きて、敬礼する。 「閣下!」 「――――ふん、アレの調子はどうだ」 「ハッ! ここ数日は元気に喚くのを止めております」 敬礼した兵士にこくりと頷いて颯爽と風を切って歩く。 「そうか……」 イオニアスはそのまま歩みを進め、一つの牢の前へ辿り着いた。 そのまま杖で格子をガンガンと叩きつける。 牢屋の奥、暗がりにて何かが動いた。 「ァ、兄上ぇぇ……」 のどが潰れているのか、しわがれた声だ。 「――――キサマの息子な、アレ死んだぞ」 イオニアスは淡々と告げた。 向こう側からの反応は――ない。 分かっていた。これにそんな物があろうはずもない。 「つまりだ、何が言いたいか分かってるか?」 「だ、出してくれるのですね! お願い、兄様!」 「あぁ、そうだ、その通りだ。出してやる。身軽にしてやろう」 イオニアスは笑う。 その笑みは冷徹な、しかし獰猛に――汚物を見るような視線で杖を女に向けた。 キュイィ――と音が鳴る。直後――牢屋の奥で悲鳴がなった。 「看守」 イオニアスが呟けば、兵士が布を一枚差し出して――それに火を当てたイオニアスがぽいと牢の奥へ投げ捨てる。 ぼんやりと照らし出された牢屋の奥で、女が一人、怯えたようにへたり込んでいた。 イオニアスはそれを見とめると、その顔に一層の憤怒をみなぎらせた。 「悍ましい――水ぼらしい姿になりおって。お前のような愚か者が 我が妹ということが腹立たしいわ」 格子を叩き折り、牢屋の内側に入ったイオニアスは、進み出て、女の頭を握り――直後にキィィィンと音が響く。 目を見開いた女は、喚き散らしながらイオニアスの腕をつかみ――やがて両耳から血を垂らしながら崩れた。 「――――キサマよりは、まだ息子の方がマシだったな。 ――――腹立たしきは、アレにはブラウベルクの血が流れていたことか」 握っていた女の頭を握ったまま、苛立ちを露わに女を放り捨てる。ごしゃりと聞こえた音を無視して、イオニアスは踵を返した。 「おい、あれは処分しておけ」 看守の変事を待つことなく、イオニアスはその場を立ち去り、重々しい扉を押し開いく。 「ふん、黄昏れが近いか……」 沈み行きつつある陽光のオレンジを眺め、男は嗤う。 燻ぶる怒りを内に押し留め続けていた。 これは、そう。その日を待つために――。 己が悲願のために、老子爵は嗤い続ける。 イオニアス・フォン・オランジュベネの第二撃が発生しました。 関連クエスト『Battle of Orangebene 』