#author("2020-10-31T21:48:37+09:00","","") *[[TOPログ]] [#vc426e8e] #author("2021-03-21T18:17:33+09:00","","") **<三千世界は鴉を殺した?> [#v718a7a5] 夢を見ていた。少女が夜を呼ぶ夢だ。 昼間の賑やかな大通りを、馬車と教会の鐘と焼いた小麦の香りを、その中を、黒衣の少女がまどろむように立ち止まる。 少女がなにごとか呟いたその時に、空は眠るように夜色へ塗り変わり、風は夢見るように静まり、人々はとっくりとしかし整然に眠りへとついていく。 町はまるで夢を見るように塗り変わっていった。 お菓子の家に、遠い銀河に、虹かかる空の庭に、海底のダンスホールに、虚無の白に、スクランブル交差点の雑踏に、羊の大移動に、あがるキノコ雲に、春風歌う大草原に、次々と、まるで元の姿を忘れるように変わっていく。 人々の姿は夢の中に塗りつぶされるように消え、空も家々も、なにもかもが消えていく。 少女はその光景の中で唯一変わらず、ただ虚空の一点だけを見つめていた。 いや。 少女だけじゃない。 少女は、『わたし』へ振り返った。 少女は、眠そうに笑い。 少女は、優しそうにまどろみ。 知らぬ間に後ろに立っていた少女が、『わたし』の両目を手で塞いだ。 「誰でも知っていて、誰も気づいていないもの、なあんだ」 『わたし』は気づいてしまった。 これは現実だ。夢なんかじゃない。 そしてもう一つ、気づいてしまった。 ――現実なんて、もういらない。 ――夢のような、夢のような、夢のような世界の中で遊べばいい。 ――現実の肉体など、朽ち果ててしまえばいい。 ※天義西部の町ムーンボギーが明けぬ夜の呪いに閉ざされました! この不吉に現場は混乱。イレギュラーズには事態の調査と解呪が求められています!