#author("2020-05-02T10:08:03+09:00","","") *TOPログ [#t86c67ee] #author("2020-07-01T11:54:28+09:00","","") **<進撃のDeep Blue II> [#o0f33126] 「これは、これは――驚きましたな」 鉄帝国宰相バイル・バイオンは皇帝ヴェルス・ヴェルグ・ヴェンゲルズからその『親書』を渡された時――彼には些か珍しい事に――至極素直な、至極直線的な表情を見せていた。 「『まさか、海洋王国が『本当我等に救援を要請するとは』」 バイルは軍師気取りで門外漢の軍事に口を出せば最終的には要するに正面突撃にしか至らない視野狭窄な老人であるが、専門畑に関して言えば(少なくとも人材不在の鉄帝国においては)屋台骨とも言える政の賢人である。先の皇帝親征から始まった第三次グレイス・ヌレ海戦の一連もその落とし所から『一枚噛んだ事に意義がある』と心得ていた。 「驚きだろう?」 「はあ、全く」 即ち、そう問うたヴェルスも応じたバイルもこう理解していたのである。 『海洋王国は名目上、鉄帝国の協力的友好の構築という押し売りを買わされた顧客である。 彼等はより大きな見返りを提出せざるを得なくなる直接的支援等絶対に嫌うであろうと確信していた』。 「それが、いざ蓋を開けてみれば」 「親書には『極北の大地にて覇気を轟かせる偉大なるゼシュテルの武力を是非にお貸し頂きたい』とありますな。 それもこれはソルベ卿ではなく、女王イザベラからの直接の要請だ。 ……お二方に不協和音でも? いやさ、違うな。これは彼等の『本気』の表れか」 「俺も同感だ。どうも奴さん本気で俺達を『絶望の青』に引っ張り出したいらしい」 独白めいたバイルの言葉にヴェルスは一つ頷いた。 「『あの海は最悪だから来い』なんて安く見られたって怒るべきか? それともおだてるその言葉の通り『誇り高いゼシュテル戦士の意気に感じるべき』なのかな」 「実際危険なのでしょうが、この国には『それを直接的に畏れる者』等おりませんでしょうなぁ。 少なくともそんな素振りを見せれば、この国では立ち行かぬ。故に『上手い』と言っておきましょう」 ゼシュテルの彼等が知り及ぶ事ではないが、イザベラの親書にはこれまで彼等が今回の大号令で知った事、分かった事、現状等に関しての資料一切が添えられていた。『廃滅病』についてすら隠す事は無く、知り得た範囲での全ての情報が記されていた。 ヴェルスやバイルの分析は当たらずとも遠からずと言えようか。 ゼシュテル民はその気質から致命に到る危険を畏れず、逆に滾る所を見せる。 「それから」 ヴェルスは小さく息を吐き出してバイルを見た。 「きっと、これは『イレギュラーズの為』でもあるんだろうなぁ」 海洋王国軍は、国民は死しても絶望を超えんとする悲願を持つ。 無論、彼等も救わねばならぬ対象ではあるが自身等の酔狂に付き合った友人を思えば尚更の事なのだろう。 「断るのは寝覚めが悪いぜ」 「……全くですな」 バイルは素っ気無く頷いたが、モリブデン――あのギア・バジリカ騒動では借りが出来たと受け止めていた。 さて、そんな二人のやり取りの一方で、謁見の間に新たな顔が二つ現れた。 「――レオンハルト・フォン・ヴァイセンブルグ、お呼びにより参上いたしました」 「宰相殿が儂をお呼びとは珍しい。さて、恐らくは『最悪の御用』とお見受けいたしますが、如何かな」 一人は先の海戦でも活躍を見せたレオンハルト――ハイデマリー・フォン・ヴァイセンブルク (p3p000497)の実父――であり、もう一人は鉄帝国の高級将校でありながら学者にして魔道士でもあるルドルフ・オルグレンであった。 「ショッケンめ――失礼、モリブデン事件の研究もまだ済んではおらぬのですがな」 「まぁ、そう言うでない、ルドルフ技術大佐。 貴様の知的好奇心は未だ見ぬ世界を、大いなる冠位魔種の存在と全く関係なくはないのだろう?」 ルドルフは気難しい顔をして小さく鼻を鳴らした。間違ってはいないが肯定したくもないといった所だ。 彼もまた古代遺跡の管理者であり、その胸に並々ならぬ野心を抱く反骨者である。この手の人材に事欠かないのが鉄帝国であり、だからこそバイルは『コントロールの効く優秀な軍人』であるレオンハルトと『そうでもない』ルドルフを組み合わせた、とも言えるだろうか。 「……と、なると。我々はもう一度あの海へ、その先へ出征となりますか」 「そうなる。海洋王国のイザベラ女王が直々の親書で『絶望の青』攻略、最後のピースに我々鉄帝国の援軍を求めてきた。 ……ま、元々は大号令を行う彼等の背中を保証するという話ではあったが、毒を喰らわば皿までというやつじゃ。 態々こんな大きな弱味――おっと、借りを晒してくれたのじゃから、上手くいけばさぞ国益に叶う事じゃろうて」 察し良く言ったレオンハルトにバイルは人の悪い顔をして応えた。 援軍を出さない選択肢は無い訳ではないが、元より皇帝親征より始まった一連の関与である。ヴェルスの出征は国内のガス抜きの色合いもなくはないが、故に何らかの赫々たる成果が上がれば最良とも言える。実際の所、海洋王国は大号令の最高記録を更新し、『絶望の青』を快進撃しているという情報は鉄帝国も持っていた。リスクを買う意味はあると思われた。 「レオンハルト中佐を指揮官に、副官としてルドルフ技術大佐をつけよう。 ルドルフ技術大佐は、可能な限り『冠位』『絶望の青』その他必要な情報を収集、解析し、持ち帰るように。 両名共に異論はあるまいな?」 「御意のままに。鉄帝国の威容武威をかの国に、海に、魔種共に知らしめましょう」 「……了解した。まぁ、それも良かろう――」 反応は二者二様だが、話は固まった。 命がけの任を受け緊迫の中、居住まいを正す。 「俺が行ければ良かったんだがね。爺さんがどうしても駄目だとさ」 そんな二人に気安く声をかけたヴェルスが肩を竦めた。 『廃滅病』の事を知ったからには――そうでなくてもなのだが――バイルは絶対に首を縦に振らないだろう。 「代わりじゃないが、もう何人かお前達についていく予定だ」 「……何人か、と申しますと」 レオンハルトがその端正な顔を少し、顰めた」 「お約束、もう居てもたっても居られないセイバー・マギエル。 後、こっちは予想外かもな。何が何でもイレギュラーズを助けに行くんだと。 ラド・バウから国民のアイドル――パルス・パッションが志願してるよ。 ……責任重大だな、レオンハルト中佐。彼女を無事に戻さなかったら鉄帝中が敵になるぜ」 「ハハハハハ、心中お察しする!」 ヴェルスの笑えない冗談にルドルフだけが高笑いした―― &br; &br; ''※鉄帝国にイザベラからの親書が届いたようです!''